イヤな奴

バドを発見し、ばんは猛然とそれを『殺し』に来た。なぜだか分からないが猛烈に腹が立った。そいつが存在していること自体が我慢ならなかった。


なぜそう感じるのかは、ばん自身にも分からない。しかし、彼が以前からずっと目の敵にしている<イヤな奴>となぜか重なってしまって仕方ない。


そっちの<イヤな奴>はこのところまったく姿を見せなくなったのでよかったのだが、どうにもそいつが思い起こされてしまって仕方ないのだ。


するともう、とにかく『ぶち殺す』以外の選択肢はない。人間のように、リスクなど考えない。法律もなければ報復されるかどうかなどという概念も持たない。『殺す』と思えば殺す。それだけだ。


ざむざむざむと下草を掻き分けて、ばんはバドに迫った。躊躇も迷いも一切ない。人間のようにも見える部分の脚で、殺意そのものの蹴りを繰り出す。


が、それは完全に空を切った。


バドが体を捻って躱してみせたのだ。けれど、ばんもそんなことでは引き下がらない。続けてまるで駄々っ子が激しく駄々をこねているかのように連続で蹴りを繰り出す。


決してスマートではないが、間違いなく殺意だけは溢れている。


けれど、バドは、四本脚の前二本を器用に使い、ばんの蹴りを受け止めてみせた。バドの足の先はタイヤになっていて、衝撃を受け止めることができるのだ。


バドはあくまでばんを観察するために派遣されているので、彼を傷付ける命令は受けていない。ならば、どれほど攻撃されようとも彼を傷付けることになるような反撃はしない。


人間のように感情的になったりもしない。淡々と、ただ淡々と対処するだけだ。


しかし、そのバドの<態度>がまたばんは気に入らない。あの<イヤな奴>のことがますます思い起こされるからだ。


そこでばんは、人間のようにも見える部分の手で、バドを捕まえようとした。


『捕まえて押さえつけて喰らい付いて殺してやる!』


そう思ったようだ。けれどそれさえ、バドは今度は自身の手で、ばんの手を払い除けた。


実に巧みに。


ばんにしてみれば、掴みかかったのになぜか届かず、空振りしてるような気がしているだろう。


それがなお一層許せない。


一方、バドの方も、こうしてばんの攻撃を受けていること自体が、本来の役目とはかけ離れてしまうので、できれば何とか離れたいと考えていた。しかし、ばんがそれを許さないのだ。


その面からも、ばんの戦闘力の高さは窺える。


とは言え、どれほど怪物のような姿をしていても力を持っていても、ばんはあくまで<生物>。スタミナは無限ではない。対してバドは、密林に設置された無線給電機を通じて常時電力は供給されるので、スタミナが尽きることはないのである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る