Ⅱ 詐欺の疑い

 数日後、そんなリカルードの用心深さは功を奏することとなる……。


「――旦那さま、やはりあのヨシュアという男を信用するのはリスクが高いかと」


「何かわかったのか?」


 いつもの如く書斎で報告をするチェス・イドォに、ヨシュアは目つきを鋭くして訊き返す。


「はい。それが、サント・ミゲルの街で聞き込みをしてみたのですが、誰に尋ねてもあのヨシュアという商人のことを知らないのです。調べに調べてホテル暮らしをしているところまでは突き止めたのですが……」


「なんだと? 商売を始めたばかりという風でもなかったし、おかしいではないか!」


 その調査結果を聞くと、リカルードは黒い眉をひそめ、若干驚いた様子を見せて声のトーンを上げた。


「もしや詐欺の類か? アングラント人のようだったし、トリニティーガーに住む輩かもしれんな……」


 アングラントとは、エルドラニアと敵対する王国の一つである。


 強国ではあるが国力は大帝国のエルドラニアにはさすがに及ばず、この新天地に入植したアングラント人達も、早くから植民地化を押し進めてきた支配層のエルドラニア人に対して弱い立場にあった。


 そのため、アングラントや同じくエルドラニアの敵国であるフランクル王国の入植者の多くは、エルドラーニャ島の北方に位置する小島〝トリニティーガー〟にいつしか逃れて住みはじめ、貧しい彼らは犯罪に手を染める傾向も強かったために、今やこの小島は総督府も手が出せぬ、海賊やならず者達の巣窟と化していた。


「となると、本当に荷や船があるかどうかも怪しいものですな。話はすべて嘘で、出資金だけを持ち逃げする気かもしれません」


「そうだな。よし。まことの話かどうか? 金を渡す前にこの目で確かめてみることにしよう」


 もっともな秘書の懸念にリカルードも頷くと、再びヨシュアなる者が金の普請に訪れるその時を待つことにした――。




「――なんとか荷と船の用意ができましたんで経費の明細をお持ちしました。お約束通り、船の仕立て金をお願いいたしやす」


 それよりさらに数日後、羊皮紙の書類を持って、再びヨシュアがリカルードの前に姿を現した。


「ああ、いいだろう……その話が本当・・だったらだがな」


 しかし、リカルードはすぐに金を渡そうとはしない。


「何分、商人というものは疑ぐり深くなるものだ。まずは船と荷を確かめさせてもらおう」


 かねてからの秘書との打ち合わせ通り、資金援助は実物・・を確かめてからにしようというのだ。


「や、やだなあ。ちゃんと用意してありますよう……まあ、疑ぐるんでしたらよござんしょう。いくらでも船のご視察に来られたらいい」


 疑念の眼差しを向けるリカルードにヨシュアは冷や汗を浮かべながらも、その疑いを晴らすべく、そんな提案を口に出してみせる。


「ほう。ならばそうさせてもらおう……今からすぐにな」


「えぇっ! い、今すぐにですか!? ……わ、わかりやした。私は先に帰ってすぐにお出迎えの準備しますんで、第三埠頭までおこしください。では、後ほど……」


 突然の申し出に一瞬たじろぐもヨシュアは冷静さを装い、そう断りを入れつつ、そそくさと書斎を後にしていった。


「……怪しいですな」


 今度も来客が姿を消すと、秘書が思っていたことを正直に口にする。


「ああ。見るからに挙動不審だったな……小細工をする時間を与えないよう、こちらもすぐに出かけるぞ」


 それにまたリカルードも大きく頷き、早々に外出の準備を始めた――。

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