5.〈 07 〉
日曜、朝9時40分に出発。覚悟しておけよ、雅彦!
ゆっくり歩いて10時ジャストに着く。敵は既に喫茶店前で突っ立っている。今日は中に入らないんだよ。
そういえばアタシ、毎週ここにきてる? ええっと先々週、正男の入試初日はこなかったか。
「おう久しぶりだな、100万持ってきたか?」
雅彦のスケベエな視線がアタシの手元に注ぎ込まれる。
ちょいとハンドバッグを持ちあげて、通りの向こうを差す。
「100万はねえ、あっちの方へ行かなきゃなんないのよ」
「なんでだ! コンビニでおろすのか?」
「イヤなら別にこなくていいから」
「わかったよ。近いんだろな?」
「ぐだぐだ抜かすな、バカ!」
「ちぇ……」
渋っ面の雅彦を従えて歩き出す。
およそ5分で、例のラブホ前に到着した。
「さあアタシの手を握って、あの中へ連れてって」
「なんだお前、おれと1発ヤリたいってか?」
「そうよ、すごい1発をね。でもその前に、今日からは心を入れ替えるって誓いなさい。そうしないと100万――」
「あ? それどういうことだ!」
「
「黙れブス!!」
仕方ないか。爪先に感じるあの、グニュ! てのはヤダけど、愛のムチが必要。
すかさず右の足先を力いっぱいふりあげ、こやつの股にめり込ませる。
「ぶほっ**!」
たとえ誰かに見られているとしても、今のは正当防衛ですから。だってアタシ、ムリやりホテルに引きずり込まれそうになったんだもんね~。
「金的ショック100万ボルトよ。すごい1発だったでしょ?」
「うぁだだぁ~~」
「その苦痛がどれほどのものかは知らないけど、女の子たちの苦しみも、星人君の心の痛みも同じなのよ。そういう他人のつらい気持ち、考えたことある?」
「ぐうぅくぅ~」
「これでもまだ懲りずにヘンなマネしたら、なん発だって蹴ってやるわ。なんなら警察に行ってくれてもいいよ。そしたらこっちだって、もう容赦しない。全部ばらしてやるんだから。わかってくれた?」
「くうぅ~」
説得完了、計画通り静かに収まった。ふぅ~、メデタシ!
アタシって、厄介なトラブルとかを穏便に解決してあげたりするお仕事の方が向いてるのかもね。
その足で病院へ行き、正男にアタシの活躍話を聞かせてやった。
そしてお家へ帰り、午後から夕方までパワーショベルのお勉強をしようと思って、まずはブログのマイページを開く。すると、またコメントあった!!
《横からで申しわけありませんが書かせて頂きます。こちらに掲載されていますスクリプトを使って、実際に僕も連載小説のダウンロードを確かめてみました。どうやら話数が多いケースでエラーが発生するようです。その原因についてですが〈小説家になるわ〉のシステムは正規の方法以外(例えばエムコさんがお作りになったスクリプトのようにセーブダイアログを使わずに自動でダウンロードする場合など)でのアクセスだとみなされる場合に、通信を遮断するように設計してあるようです。サーバーに負荷がかかり過ぎないようにするためだと考えられます。具体的な対処方法としては、1ファイルのダウンロードが終わるごとに、スクリプトを中断するコマンド〈StartSleep〉を挟むなどすることが有効かと思われます。試しに200ミリ秒ずつのインターバルを入れてみるだけで200話以上の作品のダウンロードに成功しました。ただし最近、外国の悪質なサイトによる小説無断転載の問題が発生しているらしく、特定のサイトやアプリからアクセスできないように、システム改善の対応が進められているようですので、そういう他の要因で今後ダウンロードができなくなる可能性は残ります。以上、長文失礼しました。[イノ@NY市]》
「えっ、これ猪野さん!?」
なんとパワーショベルの達人さんが、わざわざアタシのヘボいプログラムを使って検証してくださったとは!! 驚きモモの木、サクラ前線まっしぐらです!
さっそくアタシも、ゆうべ金木君が教えてくれた作品ID〈PQR1984〉の小説で試しました。すると確かに全234話のうち、たった12話でダウンロードがとまりました。
続いて、猪野さんの本で〈
そのコマンドの解説によると、〈StartSleep Milliseconds:200〉という1行を追加すれば、そこでスクリプトの実行が200ミリ秒間中断するそうです。
プログラムを修正して、もう1度〈PQR1984〉のダウンロードをやってみる。
終了するまでに2分くらいかかったけれど、全234ファイルのゲットに成功!
「お礼の返信コメント書かなきゃね」
《イノ@NY市さん、ご丁寧なアドバイスをどうもありがとうございます。こちらでも全234話の作品でスクリプトの実行を確認しました。掲載しているサンプルプログラムは、取りあえず〈StartSleep〉を挟んだ修正版に差し替えます。[エムコ]》
いやあ、やっぱパワーショベルの達人への道のりって長いわ。
と、ここへノックの音がした。
「入っていいよ~」
ドアが開く。
「おい正子、そろそろ見舞いに行く時間だぞ」
「わかってる。ねえお父さん、見て見て。アタシのブログに、猪野さんがコメント書いてくれたんだよ」
「ああ、例の高い本を書いた達人で、爆弾にも負けなかった男だな」
「うん」
お父さんが横にきて、ノートPCの画面を覗き込む。
「お前、その男のことが好きなのか?」
「そういう
「正子にしては珍しく慎重な交際だな?」
「アタシもね、そのなんというか真面目なおつき合いを考えなきゃなのよ。ふふ」
「結婚前提か?」
「まだまだよ。だって猪野さん、婚約者さんを亡くしたばかりだし……」
「ああ、そうだったな」
そうよ。今は遠距離恋愛にもならない、単なるネット交際。不思議な縁、パワーショベルつながりってやつ。
「ねえお父さん、今日は正男に駅前喫茶店のババロア、持って行ってやろうよ?」
「テイクアウトはできないだろ?」
「頼めばいいじゃん。だってあの子、今この街のヒーローなんだから」
「それはそうだが」
身の危険を顧みず、命がけでオバアサンを救ったことはニュースにもなり、あの正男も今や中原で、ていうか川崎で1番の勇気ある若者なんだもんね~。
そんな勇者の姉様であるアタクシは鼻高々でござぁーますわよ。おほほ。
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