0.〈 03 〉

 さあて気分もスッキリしたことだし、トンコと会話続行。


「もしもし、お待たせ玉の緒のご明太子!」

『へ……? あ、もしかして取り込み中? だったらかけ直すけど?』

「いやいや違うよ、違うんですわ。いつまで経ってもおバカな弟が畏れ多くも、大恩ある姉様のアタクシに刃向って、無謀にもからんできやがったのよ。ホント困っちゃうわねえ」

『あはは、そうなんだ。でもいいなあ、兄弟がいて。ワタシなんて1人っ子だし……、そのなんだっけ、マサオちゃん、だったよね? あの子も元気してる?』

「うん元気元気、欲求不満でパワーあり余ってる、そんな現在進行形の浪人生」

『へぇそうなんだ、マサオちゃんも大変だね?』

「バカだからね。あそれよか、今も小説とか読んで1人で楽しんでる?」


 このトンコったら中学2年のとき友だちいなくって、いつも本開いてたもんね。隅っこの席で透明人間みたいになっててさ。

 初めてアタシが話しかけてやったとき、トンコが読んでたのは『小皇女ベッキー』だったよね。アタシもそれ読んで泣いたわ。で、それの実写ドラマになってるやつのDVDを観てすこぶる笑っちゃったよ。感動の名作をお笑いの方向へ持って行くところが日本のテレビのすごいところというか、なんというか……。


『うん、もちろん読んでるわよ』

「やっぱ読むんだよね~、あと漫画なんかも。でしょ?」


 なにはともあれ、トンコは今でも本の虫なんだね。あ、虫といっても、本の糊を食べちゃう〈紙魚〉とかのことじゃあないから。それむしろ本の虫の天敵だし。


『そうだね、漫画もおもしろいの無料で読めるサイトも増えてることだし』


 まあアタシだって、新刊本、中古本、電子書籍、徒歩10分の中央図書館、インターネット電子図書館の晴天文庫、あとWEB小説投稿サイトもたくさんあって、小説家になるわ、満天文庫、エベレスト、ブーメラン、アクロポリス、カケヨメなどなど、まあいろいろと読んでるんでありますよ。つまりは、〈ウルトラ読み専〉なんよ。へっへへへ~。

 そうそう、ウルトラといえばこの前も、ていうかあれからもう1か月過ぎてるんだけど、ブックオンのウルトラセール〈中古本全品20%引き〉なんてのをやってたから、初春の青空を喜びつつテクテクと歩いて行ってたくさん買ってきたのよねえ~。もうそれ一気に読んじゃった。それこそ寝正月ならず〈読正月〉だったわけよホント。


「ああところでトンコ、〈小説家になるわ〉ってテキストファイルでダウンロードできたりするじゃない?」

『そうだね』

「だけど連載だったら投稿単位で、ファイルの名前の最後に1、2、3とか数字ついててそれら全部ゲットした場合、大量過ぎて困るんだわ。大漁ウェルカムですか? いえいえ1つのファイルにまとめたくなるわけよ~」

『なに正子、いつもダウンロードして読んでるの?』


 でもだからって、パソコンでそれらを順番に開いては全選択してコピペして、また開いては全選択してコピペして、とかって力技で1つにまとめるなんて、そんなかったるいことしてられますかってぇの! そんなことしてたら、大切な読書の時間が減っちゃうもんね~。


『ねえ正子、正子ってば!』

「えっえっ、ごめん?」

『正子、それってスクリプト使ってやればいいと思うよ』

「スクリプト?」


 えっと、脚本のことかしら?


『プログラマーしてる男の人、あなたに紹介してあげようかと思うの』


 はぁ男の人……? ってなにそれ、どういう展開? なんだかわけわかんなくなってきたぞ。ちょっと待って、ウェイトフォーミー!

 最初はテキストファイルのこと話してたんだよね? それが脚本だか台本だかに飛んで、そしてトンコがアタシにプローの男を紹介してくれる、ですってぇ!?


『ねえちょっと正子、ちゃんと聞いてる?』

「えっ、うん聞いてるし。で?」

『だからその人ね、〈PowerShovelパワーショベル〉という処理環境を使えるの。〈Windersワインダーズ〉というOSに標準で入ってて、それを使ってスクリプトという種類の便利なプログラムを作ってる人なの』


 はぁ? パワーショベルを使える!?


「工事現場のオジサンってこと? しかもドラムやってるって……、それどういう組み合わせよ?」

『あはは、なにいってんの、もう笑わせないで。いつまで経っても大ボケ正子なんだから~、あっははは~』

「いやいやいやいや、まったくもって違いますですよ、そっちが急に話の流れかえたんでしょうが!」

『もう正子怒らないでよ。あなたどうせ話しながらヘンな妄想でもしてたんでしょ。今からゆっくり説明してあげるから、よお~くお聞きなさい』

「うんわかった。ちゃんと話してくれるならよしとしよう、許す」


 およそ5分後、アタシはすべてを理解できた。

 パソコンで大量のファイルを順番に開いては全選択してコピペして、また開いては全選択してコピペして、というような手間と時間と根性が必要になる〈大仕事〉を一瞬にしてやってのける、そんな魔法使いのような男を、トンコがアタシに紹介してくれるそうだ。


 その彼、27歳独身にして真面目なプロのプロー。

 ドラム叩いてる人じゃあないよ、〈PowerShovelパワーショベル Wizardウィザード〉だなんて呼ばれるほどの、巧みにプログラムを作れる達人さんなんだって。すっご~い!

 そして肝腎のルックスはというと、名前は覚えてないんだけど去年の『銀河ドラマ』に出てた僧侶コンビのカッコいい方をやってた人と顔が似ているらしい。

 で、その人との〈対面の儀〉が、なんといきなり明日の午後なのよ!


 ああ、アタシには今年こそホントいいことあるかも。へっへへへ~。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る