創作のナゾ

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創作のナゾ

基本のナゾ

語順

 いつものように(懲りずにともいう)新作のラノベめいた話を書いていて、かねてより気になっていた問題がかつてなく気になったのである。

 

 語順。


 首を左右に振った、という表現がある。否定を示す慣用句とされている。首を振るでも成立するらしいのだが、私は分かりやすくするために方向を加える癖がある。ラノベを意識しているからといっていいのかどうか。


 要するに『首を振る』だけだと否定か肯定か分かりにくいので、一見しただけで分かるように方向を足している。できれば消したかったりする。なんでって、情報量がかさむからです。そして、語順が気になってくるからです。


 首を、左右に、振る。


 まず首が頭に浮かび『左右に』がインプットされ、振るという動作に移る。

 左右に首を振ったでもいい気がしてくる。


 新聞記者だったか編集者だったか忘れたが、日本語は短いものから長いものにつなげていくと読みやすい、みたいな話をみたことがある。

 

 首を、左右に、振る。


 短いのから長いのにつながっているが、最後は短いのにつながっている。これは意味のつながりの強さが重視されているからだろうと思う。ここで、分からんくなる。


 左右に首を振った、ではなぜいかんのか。


 いや、理由は分かっている。私は小説の場合は可読性を考慮したうえで強調したい語を前に出すべきだと思っているから、なぜいかんのかと疑問に思うだけだ。

 強調したい語というのは作者のエゴであるから、そんなエゴを知らない読者にとって可読性は下がる。たぶん。自信ない。だから分からん。

 

 首を左右に振った、だけならいいけれど、そこに動作の緩慢さを加えると、より複雑になる。


 首を左右にゆっくりと振った。


 この気持ち悪さ。


 ゆっくりと首を左右に振った。OK

 首をゆっくりと左右に振った。アリか?

 首を左右にゆっくりと振った。アリよりのナシ?

 左右にゆっくりと首を振った。……ん?

 左右に首をゆっくりと振った。……んんん?

 首を左右に振った。ゆっくりと。自己愛キメてんじゃねーぞ。

 振った。首を。左右に。ゆっくりと。一周まわってカッコイイよ、キミ。


 かように、わけが分からぬ。

 ややこしいことに読み味にも影響してきやがる。

 描写という観点からすると、大きいものから小さいものへ、あるいはその逆がいい(想像しやすい)とされている。方向はどっちからでもいいというか、前の文章次第である。


 極端にいえば、好きな人が死んじゃって、それを知らない人に『どうだった?』とか病状を聞かれたとき、情感を出せるだけ出しつつ首を左右に振るなら、どっかに風景の描写を入れたりする。


 窓の外で、赤く色づいた葉が風に揺られていた。

 ボクちゃんは、首を、ゆっくりと左右に振った。


 とか。

 ……いや『窓の外』いるか? なんで『赤く』から入った? 風のがデカいんだから風に葉が揺られていたでは? 風によって揺れてるんだから揺らされていたでは? 強調したいのは赤い葉だから赤い葉が窓の外で風に揺られていたでは。いや遠すぎるだろ。


 わからん。


 まったく分からん。なんでこんなことを書いて公開してるのかも分からん。

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