女子だらけのシェアハウスに住めば陰キャな俺でも陽キャになれるか研究会

正田マサ

第1章 上京編

第1話 夢のシェアハウスと、茶色い液体

***************

※この物語はフィクションです。

※お酒は20歳になってから。

***************



 3月30日。


 シェアハウスに引っ越してきて1日目の夜。

 住人たちが、なんと俺の歓迎会を開いてくれた。


 開いてくれたのは良かったんだけど。




 ――気づけばもう午前1時。



 共同リビングにずらっと並ぶ、ふかふかなソファ。


 そこには美女3人が、ソファにぐでっともたれかかり、まるで死体かのように寝転がって爆睡している。


 そのうちの1人は、もはや床に転げ落ちていて、今にも吐きそうな顔をしながら「う゛~ん」とうなだれている。



 ソファ付近に置かれた、大きな大理石のローテーブル。


 これでもかというほどに、ビールやストゼロの空き缶、オレンジジュースやコーヒー牛乳の紙パック、そして帽子を被ったヒゲのおじさんの絵柄が描かれたウイスキーの大瓶たちがテーブルを埋め尽くしている。



 そんな中、申し訳なさそうに小さな白い紙コップが6つ、ポツポツと佇んでいる。


 そのうちの1つは、俺のために用意されていたはずの紙コップ。

 これはジュース(チェイサー)用のコップだった。


 ――だったはずなのに。



 容赦なく注がれる、茶色い液体。


「ヨウがー飲んでなーい♪ 全然飲んでなーい♪ 今夜は帰さなーい♪ ときめきメ○リアルッ♪」


 床に座っている、ぐでんぐでんに酔っ払った美女(魔女?)2人が、呪文かのごとく「コール」を唱えながら液体を注いだ紙コップを隣に座る俺にぐいっと押し付けた。


 ――ヨウとは、俺、日笠陽のことである。



 無理矢理、紙コップを持たされたので、一応中身を確認してみる。


 ……バカみたいに量が多い。コレを今から俺は飲むのか!?



「――しょ、正気っすか!? これ、もはや致死量っすよ!?」


 注がれた量を見て、驚きととまどいを隠せず抗う。


 しかし、魔女2人は「ときめきメ○リアルッ♪」のコールに合わせて胸の前で手でハート型を作る。

 早く飲めと言わんばかりに「ルッ♪」のタイミングで手で作ったハートを俺に投げ飛ばしてきた。



 ……ええい、もう、どうにでもなれっ!!!!


 俺は紙コップにヒタヒタに注ぎ込まれたウイスキーの原液を、ぐいっと一気に喉の奥へ流し込んだ――。




***


どうしてこうなったのか、経緯を説明させてほしい。


それは、今日(というより日付をまたいでいるので昨日)の午後1時に遡る。


***




 東京都某区の、閑静な住宅街。


 俺は、実家の田舎街から随分と離れたこの地に。スーツケースを転がせてやってきた。


 なんでこの場所に来たかって?

 そりゃあ、「陽キャラ」になるために決まってんだろ!




 ――中学、高校の俺は、女性と非常に距離が遠く、まさに「陰キャラ」と呼ぶにふさわしい、モブ・オブ・モブ人間だった。


 中学は必ず部活に入らなくちゃいけなかったから、仕方なくバスケットボール部に入って、バスケに熱中した。

 けど、小学校のころ特に運動もしてなかった俺は、全然上達できなくて。周りの上手いやつらとどんどん差が離れていった。


 バスケが上手い奴らは、学校の女子にどんどんモテていって。

 俺みたいな下手くそは見向きもされないし、試合でも万年補欠。目も生まれつき悪く、メガネが必須。

 バスケでぴょんぴょん飛び跳ねて、牛乳ばっかり飲んでたからか、背だけはぐんぐん伸びた。ついたあだ名は「ノッポさん」。


 クラスでも部活でも、カースト下位。

 カースト上位のやつらは女子たちとキラキラした会話をしてて、俺らカースト組は深夜アニメとラノベとゲームの話ばっかり。


 女子に話しかけても相手にされないし、むしろ話しかけてもいないのに「ノッポさんだ、ウケる~!」ってキモがられる。


 カースト下位にいる陰キャ人間、というレッテルだけで、女子たちからも嘲笑われるこの世知辛い世の中。


 あぁ、俺も上位側になりたかったなぁ。モテたかったなぁ。陽キャになりてぇなあ。



 そんでもって、先生に進められるがまま受験し、県内で数少ない男子校に入ってしまった。


 高校に進学すると、さらにオタク文化に根強い奴らが沢山いた。


 学校では女子たちが絶対にしないような話題で盛り上がり、毎日深夜までネトゲして。

 それはそれで楽しかったけど、女子と関わる機会がほとんどなかったおかげで、女子との話し方を忘れた。


 女子と関わる機会をくれる文化祭では、思春期ばりばりの俺、やってくる女子たちにモテたいがために、いつもより気合をいれて髪をセット。


 しかし話しかける勇気なんてなく、ただ話しかけるのを待つのみ。


 そして女子たちは、陽キャラ男子たちのもとへ引き寄せられるかのように集まり、ワイワイ楽しくやっている。



 くそぅ!!! 俺も陽キャラになりてぇ!!!!!

 陽キャパリピ人間になって、女子たちにモテモテな人生を送りてぇ!!!!!



 ――俺は決意した。


 大学デビューして、陰キャから陽キャに生まれ変わろう。

 生まれ変わって、女子と毎日ヤりまくりライフな人生を過ごそう!



 それからというもの、必死に勉強し、都内の大学に合格。

 

 都会に出る、ということでコンタクトレンズデビューを果たす。

 田舎で有名な美容室にも行き、初めて茶髪に染めて戦闘力を高めた(つもりになった)。



 そしてひとり暮らしで東京の荒波に揉まれ、最強の「陽キャラ」になるために、俺は上京したのであった――。




 ――そして、都内某所。

 小高い丘の上に建てられた、閑静な住宅街に佇む3階建ての大きな館。

 いかにもデザイナーズ物件って感じだ。


 なぜ、この物件を選んだかって?

 ふふ、それはな、陽キャラになるための第一歩さ。


 なんてったって、ここはシェアハウスなんだぜ!?



 シェアハウスって言ったら、あの人気恋愛リアリティーショー「バルコニーハウス」で、数々のイケイケたちが恋愛を繰り広げてきた舞台!


 そりゃあもう、否が応でもイケイケになれるっしょ!


 実家から東京までは遠いから、正直内見してないけど。

 誰が何人住んでるかって情報も正直よく知らないんだけど。



 都内でひとり暮らしをするために物件探しのネットサーフィンをしていたときにたまたま見つけた、学生限定シェアハウス。

 俺が見つけたときには満室になってたけど、これから入居者を募集する状態だった。


 シェアハウスだから、キッチンとか風呂場とか、設備は共用。

 共用ってだけでもドキドキする。

 家具もあらかた備え付けらしく、初期費用がほとんどかからないのも嬉しいポイント。


 気になって管理会社に電話したら、応募者殺到中で早く仮押さえしないと埋まっちゃうってことだったから、ノリと勢いで入居を即決。


 ってなわけで、俺は館(シェアハウス)にやってきたのだ。



 どんな人が住んでるのかな、女の子はどれくらいいるのかな。

 男女仲良くキャピキャピできるシェアハウス。ああ、楽しみだ!




 ――館はレンガの塀と鉄の門で囲われており、中が見えないようになっている。

 備え付けられたインターホンを押して待っていれば、管理人さんが来てくれるって話だったけど……。



 しばらく待っていると門が開き、中からスーツ姿のキレイな女性が出てきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る