下 ── あなたは無茶はしませんから
スライド式のガラスドアを潜り中に入ると、フロントに知った顔を見つけた。
パーティーの狙撃担当、〝レンジャー〟ことリオンだった。
もう
その女の子の困った様子と
「──リオン、今日はギアの
ダニーが助け船を出してやる。
それでリオンの意識がダニーとその隣の俺へと移った。
「いや……それとは別に、
俺たちに右手を上げて寄越すリオン。その隙に女の子は支払いの入力操作を完了すると、ダニーに向いて〝助かりました〟と微笑み、カウンターの奥に消えてしまった。
支払手続き完了のチャイムにリオンがカウンターに視線を戻したのだが、もうそこに彼女の姿はなく、カウンターのトレイの上にチップカードを兼ねた
慌てて女の子の顔を捜し始めたリオンの姿が微妙に憐れで、俺が言葉を引き取った。
「結局、容量を下げるのか」
少し前に、ギアの重量を少しでも軽くしたいと、リオンからはラジエーターの小型化の当否を相談されていた。
……で、そのときに俺は〝消極的な賛成〟すらしなかったはずだったが…──。
「ああ……」
まだ未練のある目線を奥にやっていたリオンが、ようやく向き直った。カウンターの上の端末に手を伸ばしつつ言う。
「俺の得物じゃ、そこまで排熱の必要がねぇからよ。射点を変えるのにもちっと素軽さが欲しくてな」
そうか、と俺は応じる。
確かに重量を軽くできれば
結局、判断するのは自分だし、そのことに責任を負うのも自分だ。
「……で、おまえらは?」
ちょっと不機嫌そうなリオンに質され、俺は答えた。
「
「ダニーは?」
「
リオンは大仰に肩を竦めてみせた。
「ハっ……マメなこって」
ま、予想の出来た反応だ。大概コイツはこんな反応をしてみせる。だが、整備の重要性を軽視するようなことはない。自分の得物はプロ以外には決して触らせないし、
……つまりは、〝シャイ〟なのだ。
そんなやり取りを交わしていると、カウンター側の壁に掛かるモニターに俺たちの担当チーフの
「やあ、来ましたね」
収まりの悪い髪、眼鏡の下、そばかすの目立つ冴えない童顔が笑いかけてくる。ちょっと見ではプロテクトギアを扱う人間には見えないが、多分、この第2層で働くメカニックの中では、三本の指に入る凄腕だ(……と俺は信じている)。名前はマーヴィン・ホイッスラーと言う。
「物を取りに来た」
俺が簡潔に応じると、
「──いま、〝結界〟を解きます。奥へどうぞ」
マーヴィンはいつも通りに応じてくれた。〝結界〟とは物理セキュリティーのことを言っている。リオンは手を振ってこの場から離れていった。
カウンターの隅が開き両脇のガードの1人が入るよう手招きしてくる。俺とダニーはカウンターの内側に通され、奥の
最奥から3つ目のハンガーラックの前にマーヴィンの姿を見つけた俺たちは、早速そっちに足を向ける。
「だいぶ手こずらされました」 そうは言っているがマーヴィンの顔は〝ドヤ顔〟だ。
「──軽量型のtype-44に
「──その分、チップは弾んでるだろ?」
俺は、放っておくといつまでも自慢話が止まりそうにないマーヴィンを遮り、自分の身体を包んでくれるギアの前に歩みを進めた。
「そりゃ、まあ、そうですけど……」 マーヴィンが渋々とその場所を明け渡す。
「試しますか?」
マーヴィンが訊いてきた。
「いいのか?」
「ええ。あなたは無茶はしませんから」
〝
だが、マーヴィンは童顔に笑顔を浮かべて肯いてみせた。その手にはカメラが握られている。
なるほど。
俺は笑い返すことで感謝の意を示すと、タイを外しスーツの上着を脱いでダニーへと放った。
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