phase 1 【日常】
#01 戦闘領域
上 ── 闇の中、2体の〝怪物〟
わずかに
バイザー越しの闇の中には、まだ何も見えない。だが強化された知覚は、確かにそれを拾っている。
もし目の前に自分の掌をかざしてもそれと判らない暗闇だ。
…──もちろん、不用意にそんなことをすれば、たちまち奴らに位置を感知され、数秒とせずに〝怪物〟どもが殺到してくることになるかも知れない。こちらが捉えたということは、先方にも出来る公算が〝大〟だ。そんなリスクは冒せない。
俺は耳を澄ます。
振動は引き続き感じられる。闇の中、2体の〝怪物〟が近付いて来る……。
俺は〝死んだふり〟を続ける。〝息を吹き返す〟タイミングは、
そして、ほどなく〝その時〟は到来した。
バイザーの向こうの視界が、いっぺんに明るくなった。
予測された進路の上を進んできた2体の〝オーガー〟──4足歩行型
十字路の瓦礫の下に設置した感圧センサーがそれを感知し信号を発する。信号は原始的なケーブルを辿って後方支援車の
周辺では、やはり同じように息を潜めていた他のメンバーのバイザーも〝息を吹き返して〟いるはずだ。
と同時に、これで
バイザーに投影される
放棄されてからしばらく経った鉱区へと至る重機坑道──戦闘領域には最近になって指定された…──がHUD上に画像処理を重ねられ浮かび上がる。輝度は十分に調整されているはずだが、暗闇に慣れ切った肉眼にそれは少々明るすぎるものだった。視界が回復するまでに1秒近く時間がかかる。
それは、
だが、俺たちは経験を積んだ〝
主坑道と連絡坑道の交差する十字路は、俺と〝クレリック〟とで設置した
支援車の中からバードは、決められた手順の通りにランチャーを操作した。2体のオーガーが〝俺たちの発する熱や振動を探知し〟行動に移るその前に。
十字路が閃光と煙に包まれた。
『──…ウォーロード……ランチャー全弾発射、全て着弾しました』
バードの興奮を抑えるのに苦労してる声音をレシーバーが拾う。そんな
『……了解だ、バード。EMPの効果を確認次第、仕留めに懸る…──』
俺は身を隠していた物陰から
すでに閃光弾の光は収まっており、まだ薄れないスモーク越しに動きの鈍った2体のオーガーが見て取れる。もし電磁パルスによって発生したサージ電流の伝うオーガーの外装を可視化することが出来たなら、その様子はさながら〝麻痺の呪文〟を掛けられ苦悶する怪物だったろうか。
レシーバーがウォーロードの指示を伝えてくる。
『──レンジャー、捜索レーダーを先ず潰せ……5秒内に2機とも、だ。できるか?』
『楽勝、です』
レンジャーの、余裕のある……というより尊大にも聞こえるその応答を聞き流して、ウォーロードは言を継ぐ。その口許がわずかに綻んでいる様が想像できた。
『ローグは〝先導のヤツ〟の中枢部を
「了解」
俺は応答すると右手のエキシマレーザーガンのグリップを握り直し、飛び出すタイミングを見計らった。もうこの時にはEMPの効果は確認できている。オーガーは2体とも動きが止まり、細かな誤作動を繰り返している。程なく自己診断が走り、
『──俺とクレリックで〝後続のヤツ〟を
ウォーロードの号令で、俺は物陰を飛び出した。
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