残したもの
砂漠の使徒
シャロールの場合
第1話 最期
「今まで……あり……がと」
「おい! そんな! 嘘だろ! シャロール!」
僕が必死に語りかけても、彼女は目を開けない。
「父さん」
息子が僕の肩に優しく手を置いた。
「うぅっ……シャロール……」
まだぬくもりの残る彼女にすがりついて、僕は涙を流す。
――――――――――――――――――――
「病気!?」
「はい、それも未知の」
信じられなかった。
けど、ここ最近のシャロールに元気がないことから薄々なにかがあるとは思っていた。
「私、死ぬんですか?」
「おい! 変なこと言うなって!」
「う〜む、余命あと一年ですね」
この世界の医者の言葉は絶対だ。
宿屋に行くと、回復できる。
それに理由はない。
それと同じで、医者が病気を当てるのも、当然のこと。
例外はない。
「でも、でもな!」
「未知の病気だから、わからないぞ!」
「ふふっ、そうだね」
力なく笑うシャロールを見て、なぜか医者の言葉が正しいように感じた。
――――――――――――――――――――
「父さん、元気出してよ」
僕は、数日間寝込んでいた。
病気なのは、シャロールなのに。
「母さんが、ごちそう作ったってよ?」
「なに?」
なんでごちそうを?
「ブレサルー? お父さん、来れそう?」
シャロールが心配してる。
行かなきゃ。
「わかった、食べようか」
寝室を出ると、いつもと同じ料理だった。
「父さん、ごめん」
「ごちそうは嘘だった……」
「ブレサル、父さんに嘘ついたのー!」
シャロールがムッとして、ブレサルを睨んでいる。
「佐藤、まだ寝ててもいいんだよ?」
「いや、もう大丈夫」
「ホントに?」
顔を覗き込んでくるシャロール。
「うん、ブレサルは嘘なんかついてないよ」
「「え?」」
「シャロールの作ってくれる料理は、どれもごちそうだからさ」
「「……」」
「さ、早く食べよう」
――――――――――――――――――――
「僕は……なんて自分勝手なやつなんだ」
布団の中で、呟く。
辛いのはシャロールなのに。
なにもしてあげられない。
そればかりか、迷惑になっている。
「僕なんて……」
「佐藤は私の大切な人」
ふと後ろから聞こえた声で、懐かしい感覚が蘇る。
「いつも私を支えてくれた」
「僕は……そんな……」
なにか特別なことは……。
「そばにいてくれたじゃない」
「それだけで、十分」
「シャロール……」
「こっち向いて」
「ん?」
寝返りを打つと、目があった。
「泣かないで」
彼女が僕の涙を指で拭った。
「ずっーと、ずっと大好きだよ」
「……ぼ、くもだ……」
抑えきれない涙が再び溢れてきた。
――――――――――――――――――――
「はっ!」
今、夢を見ていた気がする。
ここ一年のシャロールとの思い出。
僕を励ましてくれたシャロール。
「会いたいなぁ……」
もう、会えない。
それはわかってるけど。
「父さん、大事な話があるんだ」
「なんだ、ブレサル?」
「これ、母さんからの預かりもの」
「え!?」
ブレサルは、丸まった紙を取り出した。
「父さんだけに見せろって言われたから、俺は見てないよ」
「あぁ、そうか」
「ありがとう」
受け取って、広げてみる。
一体なにが?
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