第52話 恐るべきモンスター出現
(やっぱり、コンビニで食糧を購入してきて良かったな)
食べ物をかっ込む碓氷パーティを眺めて、ソラはそう思った。
このダンジョンに来る前に、ソラはコンビニでおにぎりと水を購入していた。
ダンジョンに潜った冒険者がまだ生きていたら、きっと飢えと渇きに襲われているだろうことが容易に想像出来たからだ。
人前でインベントリを披露するのは憚れたが、リーダーの碓氷の目を見て決心できた。
彼は、善良な側の冒険者だ。
それは態度にも表れていた。
現状、舐められれば武具を奪われて殺される可能性がある。
そのため最低限の威厳は保っているが、ソラへの態度は非常に丁寧なものだった。
(この人達が、全滅しなくてよかった……)
相手が邪悪な側に立つ冒険者であれば、見捨てることも視野に入っていた。
そんな冒険者でなくて良かったし、善良な冒険者を救えて良かったと思う。
「ところで天水さん。パーティメンバーはどこに?」
「一人ですよ」
「……へっ?」
「ここには、一人で来ました」
「…………ハァッ!?」
さすがにソロでの突入は伝えるべきではなかったか?
相手の反応を見て、少し後悔する。
だが言ってしまったのはしょうがない。
ソラはそれとなく、話題を逸らす。
「そういえば、先に冒険者パーティが救助に入りましたけど、その人たちとは会いませんでしたか?」
「……ああ、天水さんはそのパーティのメンバーなのか」
「ええと……まあ……はあ……」
何故か勘違いをさせてしまったが、訂正しても信用してくれるかは怪しい。
ソラは曖昧に返事をして、このまま話を進めることにした。
「質問に対しての答えだが、俺たちが他の冒険者を見たのは、天水さんが初めてだ」
「そう、ですか」
やはり、別パーティは近くにいないようだ。
既に死んでしまったのでは?
嫌な憶測が浮かぶ。
だが、後から入ったパーティは、冒険者協会が救助用に依頼した冒険者たちだ。
そう易々と命を落としたとは考え難い。
「一番良いのは、みんなが一箇所に固まって、スタンピードを待つことなんだけど……」
「ここに別のパーティも合わされば心強いな。さすがに変異ダンジョンCランクのボスは少し手こずるかもしれないが、それでも決して倒せないわけじゃ……ん、天水さん、どうしたんだ?」
首を傾げる碓氷に、ソラは眉根を寄せた。
彼らはあまりに、無防備すぎる。
(もしかして、気付いてないのか?)
膨大なマナを秘めた嫌な気配が、こちらに近づいてくる。
その接近に、どうも碓氷のパーティは気付いていないようだ。
「残念ながら、スタンピードを目指すやり方は没です」
ソラがそう伝えた、その時だった。
平原の向こうから、リカオンの大群が現われた。
それともう一体。
「ラッキー。こんな所に食事が固まってら」
「魔物が――」
「喋った!?」
ボスと思しき人狼の口から言語が飛び出した。
碓氷たちが戸惑ったように声を上げた。
ソラも内心、飛び上がるほど驚いた。
だが、驚きを表に出せる余裕がない。
人狼が、皆を見回してため息を吐いた。
「しっかし、こいつらも雑魚かよ。折角食って力を取り戻そうとしてんのに、なんの足しにもなりゃしねぇ」
「こいつら〝も〟?」
ソラが僅かに眉を顰めた。
(もしかしたら、このダンジョンに入ったもう1パーティは……)
ソラの憶測を肯定するように、人狼がニタリと歪な笑みを浮かべた。
「ああ、さっき見つけてよ。ちょこまかウゼェから潰してやった。あ、テメェの仲間だったか?」
「いいや」
ソラは首を振る。
仲間ではないが、同じ冒険者だ。
生きての合流が叶わず、胸の中に無念が広がっていく。
「しっかし、マコウが言った通りだったな。こっちのニンゲンは、雑魚ばっかだ」
「雑魚だと……ッ!?」
「人語を操れるからって、生意気言ってんじゃないわよ!」
軽い挑発に、碓氷らメンバーが色めき立った。
彼らはこれでも、Dランクの冒険者だ。
雑魚と呼ばれるほど弱くはない。
今にも暴発しそうな碓氷たちを尻目に、ソラは冷静さを保ち頭を働かせる。
(マコウ? もしかして、仲間がいるのか?)
慌てて【気配察知】を拡大する。
しかし、ここにいる冒険者と魔物、それに人狼以外の気配は感じられない。
内心、安堵の息を吐く。
もし他に仲間がいれば、絶望的だった。
「うっせぇな。雑魚に雑魚っつって何がわりぃんだよ?」
「あったまきた! 獣風情が生意気言ってんじゃないわよ!」
弱いと言われてプライドが傷付けられたか。
碓氷パーティの魔法使いが、その杖の先に炎の玉を浮かべた。
「今更謝ったって、もう遅いんだからね! 〝ファイアボール〟!!」
離れていても熱気を感じるほどの炎が、凄まじいスピードで人狼に向かった。
――ゴウッ!!
ファイアボールが直撃。
炎が人狼の上半身を呑み込んだ。
「どうよ!? 人間を馬鹿にした報い、を……えっ……?」
気持ち良さそうに啖呵を切っていた魔法使いの言葉が、途中で途切れた。
彼女は目を剥いて、前方を凝視している。
「これが魔法か? こんなもんが? くっくっく……笑わせるじゃねぇか」
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