第50話 ランクアップ

 ソラはゲートから、ダンジョンに入ったばかり。まだ一歩も移動していない。

 にも拘わらず、背後にゲートがない。


「なるほど、これが誰も戻ってこない理由か……」


 中に入ったパーティが戻って来られないのは、外に出るゲートが、本来ある場所になかったからだ。


「この平原の、どこかにあるのか?」


【気配察知】を拡大していくと、ふと人間の気配を発見した。

 人数は5人。

 おそらく、先に入っていたパーティのいずれかだ。


(他のパーティは……)


 さらに気配を探すが、ソラの位置からでは見つからなかった。


 既に死んでいるのか、はたまたソラの【気配察知】では捉えられないほど遠くにいるのかは定かではない。


(出来れば後者であって欲しいけど)


 その時、近くで気配の動きを感じた。

 即座にソラは臨戦態勢になる。


 ガサガサ。

 背丈の高い草が揺れた。

 次の瞬間だった。


 ――グルルルル。


 狼型の魔物がソラ目がけて襲いかかってきた。


「――ッ!」


 相手の動きを【気配察知】で捉えていたため、即座に対応。

 攻撃を躱し、延髄に短剣を突き刺した。


 その相手を見て、ソラは目を見開いた。


「これは、リカオンか? ……まずいな」


 ソラは舌打ちをする。

 リカオンは、人狼型の魔物で、四足歩行と二足歩行を使い分ける。

 非常に獰猛で、人を見れば問答無用で襲いかかる、Cランクのダンジョンに出現するモンスターだ。


「Dランクじゃなかったのか」


 事前情報に文句を言いたいが、相手がいない。


 そもそも、このダンジョンは高確率で変異していることが想像出来ていた。

 そこに踏み入ったのはソラである。文句を言うのはお門違いだ。


 問題は、魔物がCランクだったことではない。

 相手がリカオンだったことだ。


「これじゃあ【隠密】は当てにならないな」


 ソラの【隠密】は、相手の視界から姿を消すタイプのスキルだ。

 しかし姿は消せても、臭いは消せない。


 人狼型のリカオンは、嗅覚が非常に優れている。

 いくら【隠密】で姿が消せても、臭いを完璧に消さない限りは、存在がバレてしまう。


「……あっ、そうだ」


 ソラは急ぎ、ステータスボードを開いた。


>>ランク:D→C

>>職業:中級アサシン→上級アサシン


「よしっ!」


 軽くガッツポーズを取る。

 ランクが上がったのは、ソラが格上の魔物――リカオンを倒したおかげである。


「これでランクアップの条件が確定したな」


・レベルがカンストする

・自分のランクよりも上の魔物を倒す

・倒す魔物は一般モンスターでも、ボスモンスターでもOK


 これが、ソラが限界突破するための条件である。


「もう少し難しいと思ってたんだけど、よかった。今後は案外楽にランクアップ出来そうだ」


 もしボスでなければランクが上がらないのであれば、ランクアップは必ず命がけになる。

 そうでなくて良かったと、ソラはほっと胸をなで下ろした。


「さて、ランクアップしたし、アビリティとかどうなってるかな?」


 アビリティに触れて、一覧を表示する。

 新しく取得したアビリティは全部で5つ。


【上級二刀流術】【危機察知】【不意打ち】【対毒】【対麻痺】


「いいね、上級二刀流術。危機察知もいい。不意打ちは、隠密との相性がよさそうだ。毒と麻痺は……どうしよう。ポーションだと回復が間に合わない、のか?」


 まだ、毒と麻痺を使う魔物に出会ったことがない。

 だが今後、出会う可能性は非常に高い。

 どうするかしばし考えて、ソラは一先ず通常用のアビリティを装備することにした。


 現時点で、リカオンは十分対応出来る。

 いざ別の以外の魔物が現われたら、その時の状況に応じて変えても遅くはないだろう。


名前:天水 ソラ

Lv:40 ランク:C

SP:50 職業:上級アサシン

STR:85 VIT:69

AGI:74 MAG:0 SEN:66

アビリティ:【成長加速】【上級二刀流術】【弱点看破】【危機察知】+

スキル:【完全ドロップ】【限界突破】【インベントリ】【隠密】【気配察知】

装備(効果):ライフブレイカー、鬼蜘蛛の足剣、革の胸当て+、亡者のローブ、ゴブリンキングの小手、漆黒のブーツ、疾風の腕輪(AGI+30)、湖水のネックレス(VIT+30)、鬼蜘蛛の憤怒(STR+30)、骸骨兵のイヤーカフ(SEN+30)


 アビリティの確認を終えて、ソラは辺りを見回した。


「さて、と。……ここからどうする?」


 もし【隠密】が通用する相手なら、真っ先にボスを倒してしまおうと考えていた。

 だがその【隠密】が、実質封じられてしまった。


 しばし考えたソラは、ひとまず気配を見つけた冒険者の元に向かうのだった。

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