第37話 リッチーのドロップ
家に帰宅すると、ソラはソファに深く腰を下ろした。
「……ああ、疲れた」
これほど寿命が削れたと思う戦いは初めてだった。
ヒールでは回復しきれない精神の疲労が、全身を気だるく支配する。
そのまま眠ってしまいたい気持ちをぐっと堪え、ソラはステータスボードを開いた。
名前:天水 ソラ
Lv:25→29 ランク:E→D
SP:0→20 職業:初級アサシン→中級アサシン
STR:50 VIT:40
AGI:56 MAG:0 SEN:15
アビリティ:【成長加速】【初級二刀流術】【一撃必殺】+
スキル:【完全ドロップ】【限界突破】【インベントリ】【隠密】【気配察知】
装備(効果):短剣+、ゴブリンキングの剣、革の胸当て+、ゴブリンキングの小手、漆黒のブーツ(隠密性+)、吸血の腕輪(AGI+16)、緩衝のネックレス(VIT+16)
「よしっ!」
格上の魔物を倒せばランクが上がるかも知れない、という予想通り、ソラはDにランクアップした。
レベルの限界を突破し、さらにレベルが大幅に上昇した。
また職業のランクも上がっている。
アビリティを確認すると、選択出来る種類が増えていた。
「この中だと、【弱点看破】と【中級二刀流術】が良さそうだな」
いくつかあるうちから、最適と思われるアビリティを装着する。
「……む、【弱点看破】を入れると【一撃必殺】が入らないな」
二つ入れようとすると、コストがオーバーしてしまう。
現在はレベルのカンストが外れたので、成長加速は外せない。次に、マスタリーの中級二刀流術も必須アビリティだ。
付け替えるならば、【弱点看破】と【一撃必殺】のいずれかになる。
「どっちが強いんだろう?」
ソラは首を傾げた。
【一撃必殺】については、若干の効果は体感していた。
特に先の戦闘では、リッチー相手に大ダメージを与えられたのも、このアビリティのおかげであるはずだ。
では、【弱点看破】はどうだろう?
「……うーん。これで戦ってみてから考えるかな」
効果が分からないことには選びようがない。
なのでソラはしばらくの間、【弱点看破】を編成して戦って見ることにした。
「さて、ステータスを振るか……ああ、いや、その前にアイテムチェックが先か」
インベントリを開き、今回のボスドロップを確認する。
名称:亡者のローブ ランク:R
防御力:+23 精錬度:―
装備条件:なし
説明:亡者の怨念が染み込んだローブ。その怨念は、使用者の魂を虎視眈々と狙っている。風切り音が低減する。
名称:奪命の短剣(ライフブレイカー) ランク:R
攻撃力:+52 精錬度:―
装備条件:AGI+50
説明:亡者を一撃で仕留めた短剣。闇と血に染まる刀身は、亡者さえも忌避する怨嗟を放っている。
「うおっ!?」
ソラは思わず喫驚した。
ライフブレイカーの攻撃力が、恐ろしく高い。
精錬済みの武器よりも強いというのは驚きである。
「さすがはCランクのボス、といったところか」
ボスのランクが高ければ高いほど、強い武具をドロップする。
このライフブレイカーは、Cランクのボスドロップだからこそこの性能なのだろう。
すぐに精錬したい気持ちをぐっと堪え、最後のアイテムをチェックする。
名称:仙丹 ランク:S
説明:使用するとSPが10増加する。(自動分配がONになっている場合、使用後即座にSPが分配される)
「これはまた、すごいアイテムだ……」
仙丹の性能がえげつない。
ランクが頭打ちになった冒険者でも、これがあれば強くなれるのだ。
BランクやAランクで成長が止まった冒険者にとっては、お金をいくら出しても惜しくはないだろう。
アイテムランクがSであるのも頷ける。
とはいえ、これを売却するつもりは毛頭ない。
大金は魅力だが、それよりも今は強くなることのほうが大切だ。
ソラは仙丹をインベントリから取り出した。
仙丹は、銀色の小さな丸薬だった。
それを噛まずに、水で流し込む。
「これでどうだ?」
ステータスを確認すると、すぐに効果が現われた。
〉〉SP20→30
「おお……」
この丸薬一つで、ソラはレベル2つ分のSPを手に入れた。
もっと沢山入手したいが、今回出現したのは変異ボスのリッチーである。
いくら【完全ドロップ】で、何度も同じアイテムを手に入れられるとはいえ、全く同じボスに出会う確率が低すぎる。
狙って手に入れられるものではないだろう。
「何個も手に入れられれば良かったんだけどな」
ソラは複数入手を諦める。
入手アイテムをひとしきり確認したあと、ソラはステータスを分配するためにまず、リッチー戦を振り返った。
「途中までは良かったんだけど、看破されてからが駄目だったな……」
もし隠密したままリッチーを倒せていれば、綺麗な完封勝利だった。
一撃で倒せる攻撃力があればそれが可能だったのでは、と思わなくもない。
「でもVITはある程度振らないと、こっちがダメージ食らうんだよな。STRよりも、職業を活かせるAGIにするか……?」
しばし考えたソラは、はたと気がついた。
インベントリを開き、精錬石を使用する。
名称:ライフブレイカー ランク:S
攻撃力:+52→60 精錬度:―→1
装備条件:AGI+50→60
「ああ、やっぱりそうか」
ライフブレイカーを精錬すると、装備条件が大幅に上昇してしまった。
もしステータスを振ったあとに精錬していたら、きっとソラはしばらくの間この武器が使えなかったはずだ。
「ステータスを振る前に気付いてよかった」
武器を精錬したときに、装備条件がどれくらい上がるかは不明だ。
強い武具は条件が大きく上がるだろう、くらいしかわかっていない。
中には精錬した途端に条件が大幅に上がって、装備出来なくなる武具も出てもおかしくはない。
「今後はアイテムに合わせて、ステ振りを考えるのも良いかもな」
ソラは一先ず、リッチーから入手した装備を精錬してみた。
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