第21話 ブラッディ・ハウンド2

 揺れる視界の向こう側、巨大なハウンドが悠然と佇んでいた。

 それを見て、ソラは自分の身に何が起こったのかを理解した。


 ボスのブラッディハウンドがソラを突き飛ばしたのだ。


 ソラはボスから一切注意を逸らしていなかった。

 常に視界のどこかに収まるよう戦っていた。

 だが、攻撃されるまでなにも気づけなかった。


(動きが速すぎるんだ)


 ブラックハウンドとは一線を画す身体能力だ。

 また敏捷性だけでなく、攻撃力も凄まじい。

 攻撃を受けてから数秒経っても、まだ体から衝撃が抜けきらない。


(これは、まずいな)


 勝利が見えてきたはずだった。

 なのに、ソラは一気に劣勢に立たされた。


 ここから巻き返すには、努力や工夫だけでは足りない。

 そう思ったソラは即座にステータスボードを広げた。


Lv:15→17

SP:10→20


 ブラックハウンドを倒したため、レベルが2つ増えていた。

 おかげで振り分けられるSPが増加した。


 これで行けるか。

 ソラは手早くSPを振り分け、ボードを閉じた。



名前:天水 ソラ

Lv:17 ランク:E

SP:20→0 職業:中級荷物持ち

STR:20→25 VIT:13

AGI:25→36 MAG:0 SEN:11→15

アビリティ:【成長加速】【初級剣術】+

スキル:【完全ドロップ】【限界突破】【インベントリ】

装備(効果):短剣+、ゴブリンキングの剣、革の胸当て+、ゴブリンキングの小手



 ボスの動きが捉えられなければ話にならない。

 なのでAGIを重点的に増強。STR、SENも増強して、速度と火力、判断力のパフォーマンスを上げた。


 相手の強さに対して、VITの低さは不安だ。

 だが、相手の攻撃が当たらなければいいのだ。


 ソラは立ち上がり、剣を構えた。

 まだ若干、足下が覚束ない。

 膝が少し笑っている。


 それを見て勝機と思ったか。残りのブラックハウンドが一斉に襲いかかってきた。


 右から左から、噛みつき攻撃。

 その攻撃を、ソラは圧倒的な速度で蹴散らした。


 ブラッディハウンドが、虚を突かれたように動きを止めた。

 一瞬のうちに、残りの五体がすべて倒されたのだから、無理もない。


「……ふぅ」


 僅かな隙を見て、ソラは体を確かめる。

 ダメージは残っているが、動く分には問題なさそうだ。


 部下喪失の衝撃から立ち直ったボスが、牙を剥いて襲いかかってきた。


(――見える!)


 先ほどは捉えることさえ出来なかったボスの動きが、いまはハッキリと認識出来た。

 しかし、それでもなお早い。


 ソラは意識的に呼吸を深くする。

 集中力を極限まで高めていく。


 世界から色が消え、コマ送りになる。

 ソラは半身になって剣を構える。


 ボスの噛みつき攻撃を、短剣でいなす。

 それは、犬歯に当てて滑らせる神業。敏捷とセンスをフルに活かした芸当である。

 攻撃がズラされたボスの顔面へと、ソラはゴブリンキングの剣を振るった。


 刹那、ボスが僅かに首を捻った。

 顔面を切断出来たはずの攻撃が躱された。

 しかし、僅かに躱しきれなかった。


 剣の切っ先が右の眼球を切り裂いた。


「ギャアァァァア!」


 ボスが悲鳴を上げてのたうち回る。

 その隙に攻撃をと思ったが、ソラが動く前にボスは立ち上がった。


 絶好のチャンスを逃してしまった。

 しかし慌てず、ソラは間合いを詰める。


 ボスは牙を剥きながら、前足を浮かせた。


「?」


 初めて見る攻撃だ。

 ソラは足を止めて警戒する。


 上がった前足が前に伸び、ソラ目がけて振り下ろされた。

 恐ろしい速度の攻撃だ。AGIを上げたいまでも僅かに霞む。


(さっき僕を突き飛ばしたのはこの攻撃か)


 いくら速度が驚異的でも、攻撃が来る場所が分かっていれば問題ない。

 ソラは冷静に回避する。


 足さばきで前へ。

 ボスの脇下に入り込み、全力で直上へと蹴り上げた。


「ガッ!!」


 ボスの体がくの字に折れる。

 口から唾液が飛び散った。


 それでも恐るべき粘りを見せる。

 攻撃を受けてもなお、ボスは体を捻り足蹴りを見舞ってきた。


 その足を掴む。

 ソラは力任せにボスを地面に叩きつけた。


「――ッ!!」


 頭から地面に落下。

 目が裏返る。


(力を五つあげただけで、これか)


 ステータスボードが、如何に優れたシステムであるかを再認識させられる。


 すぐに意識を切り替え、ソラは剣を強く握りしめる。


 最後まで注意深く、それでいて迅速に。

 ソラはゴブリンキングの剣を、首目がけて振り下ろしたのだった。



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