アイラちゃんとデート
お屋敷に戻ると時刻は既に午後3時。
アイラちゃんがご機嫌斜めだ。
「タナオカお兄ちゃん、アイラは怒っています」
「どうした?」
「なんでアイラだけ置いてきぼりなんですか? 本当に寂しかったんですよ」
まあ、今回のオーク討伐は厳しかったので連れて行かなくて正解だった。
でも、アイラちゃんはまだ怒りが止まらない。
「それにエストに帰って来たのに、なんでアイラの元に直帰で戻ってこないんですか? アイラがこんなに寂しがっているのにお酒の臭いをプンプンさせながら帰ってくるなんて最低です」
「ごめん。でもこれはアレスさんたちの結婚のお祝いで参加しないわけにはいかなかったんよ。アイラちゃんも大切だけど、仲間を
それを聞いて少し落ち着いてきたみたいだ。
「まあ、仲間を大切にするタナオカお兄ちゃんを否定するわけにもいかないので今回は許します。でも、この埋め合わせとして今日一日はアイラとずっと一緒ですからね。いいですね?」
それは拒否することは一切出来ない命令だった。
俺としては長旅の後だったので今すぐにでも休みたかったんだけど、アイラちゃんを悲しませてしまったんだから仕方ない。
俺はアイラちゃんに一日付き合うことにした。
俺と出掛けるアイラちゃんは珍しく街娘の格好をしている。
初めてアイラちゃんと出会った時の格好だ。
「さあ、タナオカお兄ちゃん! デートに出掛けましょう!」
アイラさんに手を引かれてエストの街に戻って来た。
少し離れた所でメイドのマリエッタさんが護衛役として隠れて尾行してきているが全然隠れられていない。
「まずは串焼きからですね」
アイラちゃんは商業区の市場で屋台の串焼き屋を見つけた。
「これよこれ、美味しいわよ」
レストランに入るものだと思っていたら屋台の串焼き屋か。
意外と庶民的で好感が持てる。
アイラちゃんは串を俺の目の前に差し出してきたが渡してくれない。
俺がどうすればいいのか戸惑っているとアイラちゃんがほほ笑む。
「あーん!」
それってまさか?
領主様とバカップルプレイをしないといけないの?
「ちょっと待って! アイラちゃんは領主様でしょ? その領主様とこんな所でバカップルしないといけないんですか?」
「しないと駄目です。あーん!」
やべぇ!
アイラちゃんが有名人なので既に周りの人が注目しまくってる。
「ニケから聞いたわよ。ここでアイスを食べさせっこしたんですよね?」
「したけど……」
あの時は顔から火が出るほど恥ずかしかった。
「ニケと出来てなんでアイラと出来ないのよ? あーん!」
俺がゴネればゴネるほど野次馬が増えていく。
ここはやるしかないと腹を括って食べたが、めっちゃ恥ずかしかった。
次はアイラちゃんの番だ。
「あーん!」と自分で言って口を開いている。
かわいいな、もう。
でもこの子は領主様だぞ。
領主様にこんなプレイをさせていいのか?
俺は葛藤しつつアイラちゃんに串焼きを食べさせた。
ほむほむと食べる姿はハムスターのようで可愛いんだけど……これでいいのか?
毎度の如く野次馬に茶化されて屋台街を後にした。
*
「次はここよ」
やって来たのは下町にある孤児院だった。
俺たちがやって来たのを見つけると子どもたちが大喜びしてアイラちゃんに集まって来た。
「お姉ちゃん、いつもの様に遊ぼうよ」
「今日は私は遊ばないけど、タナオカお兄ちゃんが遊んでくれるわ」
え?
俺が遊ぶの?
「そうよ。これからアイラと子どもを作るんだし、少しは子どもたちにも慣れて貰わないとね。子どもと遊べない親は最低よ」
今まで子どもたちと触れ合うことなんてなかったけど、そういうことならば頑張ってみよう。
俺は鬼ごっこを始めた。
5分間逃げきれた子には商品の串焼きだ。
本気を出して子どもたちを追いかけてたら商品を貰えなかった女の子が泣きそうになってたので、結局参加賞として全員に串焼きを配ってやったら大喜びだ。
「どう? 楽しかった?」
「ええ、まあ」
「じゃあ、合格ということにしておきましょ」
なにが合格かはわからないけど、実はめっちゃ楽しんでいたのは事実だ。
「最後はここよ」
アイラちゃんに連れてこられたのはエストの街の街外壁の上だった。
高さは20メートルあって、この街壁よりも高い建物は無い。
夕日に照らされた街並みが遥か彼方まで広がっている。
アイラちゃんは自慢げにこの景色を俺に見せた。
「どう? これがエストの街よ。素晴らしいでしょ?」
「ええ、それに結構大きい街ですね」
「この大きな街の中には市場の人たちの笑顔や孤児院の子どもたちの笑顔が詰まっているのよ。その笑顔を守るのが領主のアイラの仕事なの」
するとどこからともなくやって来たマリエッタさん。
「実は今日、お嬢様が案内した場所は先代の領主であるアイラ様のお父様が、アイラ様の6歳の誕生日を記念して連れてきた場所なのです」
お父さんはアイラちゃんに向かって万一のことがあったらこの街を守るのはアイラちゃんの仕事だと伝えたそうだ。
アイラちゃんは真剣な顔をして俺の瞳を見つめる。
「タナオカお兄ちゃん、アイラと一緒にこの街の住人の笑顔を守ってくれるよね?」
これがアイラちゃんが俺に言いたいことで見せたいことだったんだな。
「もちろんです。街の人たちの笑顔だけでなくアイラちゃんの笑顔も守って見せます」
俺はアイラちゃんの頬に口づけをした。
「今日一日アイラちゃんの大切な場所を見せてくれたお礼です。これからも頑張ってください」
顔を真っ赤にするアイラちゃん。
「えへへ。最高のプレゼントを貰っちゃった……もう一生このほっぺは洗わないわ」
「お嬢様! お顔は毎日洗わないと駄目です!」
「じょ、冗談よ」
守るべき街を見つめながら、俺たちは大いに笑った。
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