ケガ人搬送
冥洞窟で大事故が起こりケガ人が教会に運び込まれたのを聞いた家族や知人が次々と集まる。
日本と違って教会は信仰の場というよりも病院としての意味合いが強いようだ。
家族たちはみな心配そうにケガ人の安否を問いただす。
「私の旦那は無事なの?」
「お父さんは?」
「彼は? 彼は大丈夫なの?」
神官の長である大神官が穏やかな笑顔をした。
「事故後、居合わせた冒険者によりケガ人が早期に教会に運び込まれましたので全員無事です」
「ほーっ」と安堵の息が家族たちを覆いつくす。
「その恩人はどなたなのでしょうか?」
「このタナオカ様です」
それを聞いた家族たちはまるで救世主を見つめるように手を取って大感謝だ。
救世主じゃなくて元勇者なんだけどね。
ニケさんと一緒に座ってた椅子の前に感謝の言葉を述べる家族の行列ができた程だ。
「夫を助けてくれてありがとうございます」
「私の唯一の家族の彼を助けてくれて本当にありがとう」
「お父さんとまた遊べるよ、お兄ちゃんありがとう」
幼女のちっちゃく温かい手に握られると、本当に助けて良かったと思う。
次々に礼を述べる家族たち。
元真の英雄だから当たり前のことをしただけだし。
そこまで感謝されると背中がむず痒い。
ニケさんも大感謝だ。
「ありがとう。お兄さんたちを助けてくれて本当にありがとう」
感謝の言葉を述べる行列はしばらく続いた。
ほっとしたのか、俺の横に座っていたニケさんは俺の肩に頭を預けるといつの間にかスースーと寝息を立てて眠ってしまった。
大神官が申し訳なさそうにやってくる。
「ケガ人たちを運び込んでくれた恩人に申し訳ないのですが、治療に使ったエーテルなどの薬品代を払っていただけると神も喜ばれます」
治療費の請求か。
俺が頼んだことだしな。
ボランティアという名でやりがい搾取するブラックオンラインサロン主じゃあるまいし、頑張ってくれた神官さんたちをタダ働きさせるわけにもいかない。
それぐらいの常識は俺だって持っている。
「いくらぐらい払えばいい?」
「えーと……」
あまりにも直球な質問だったので答えに困ってるようだ。
遠慮がちに請求してきた。
「500万ゴルダほど頂ければ……」
たけーな。
でも、これだけの人数だもんな。
高そうなエーテルを何本も使ってたし、それぐらい掛かって不思議はない。
ゴーレム素材の売却で金が足りればいいんだけど。
足りなければ徹夜でウサギを狩りまくるしかない。
*
で、やって来ました冒険者ギルド。
この街に頼れる知り合いはギルド長しかいない。
俺は受付嬢のカンナさんにギルド長のリーダさんを呼んでもらう。
「どうした? またトラブルでも起こしたのか?」
俺をいつもトラブルを起こしている問題児扱いするなよ。
「そういえばガリム総長からこの前お前にアイテムボックスに取り込まれた冒険者を返されたぞ。すっかり怯えてたんだが、なにをやらかしたんだ?」
「ガリム総長?」
誰それ?
聞いたことないんだけど?
「店じゃクリムパフェと名乗ってたな」
あー、オネェバーのオーナーか。
細かく説明すると売り払ったことがバレてヤバそうなのでスルーして要件を伝える。
「いきなりなんだけど、ちょっと金が
「ゴーレムのコアか?」
「それだけじゃなくアイアンゴーレムの本体もだ」
「本体だと? あんな重いものをアイテムボックスに入れて持ってきたのか。お前のアイテムボックスは頭おかしいぐらいとんでもないな」
買い取りカウンターに案内されたので出しだんだが、ゴーレムの重みにカウンターが耐えられずたわんですぐにぶっ壊れた。
「お、お前! これはアイアンゴーレムじゃなくヘビーメタルゴーレムじゃないか! しかも上級冒険者でも狩るのに苦労するこんな大きなものをどこで手に入れたんだ?」
「冥洞窟の下層のゴーレムを3階まで連れてきたバカがいて大騒ぎだったんだ。それの救出ついでだよ」
「それでヘビーメタルゴーレムを倒したのか。お前は頭がおかしいのに実力だけはあるんだな」
うっせーよ!
何度も頭おかしいというな!
でも、言葉は悪いが誉められてるので悪い気はしない。
「買い取り価格だが、目立つ傷も入ってない上物なことだし割増しで2400万ゴルダの買い取りでいいか?」
普通のヘビーメタルゴーレムだとコア込みで査定額が2000万ゴルダ程なのが相場でかなりお高い査定とのこと。
半分は俺の取り分だとアレスさんから聞いていたので有り難く受け取った金から1200万ゴルダ程頂く。
ちなみに普通のアイアンゴーレムは鉄素材も含めても200万ゴルダにしかならないらしい。
*
教会に戻り、請求額の倍の1000万ゴルダを渡すと大神官はほくほく顔で俺への態度をさらに良くする。
「大ケガをしたり死にかけたらいつでもいらっしゃってくださいね」
すごく好意的なことはわかるんだけど、あまり教会にはお世話になりたくない。
治療の終わった冒険者は即日退院だ。
日本の病院じゃ考えられない光景だよ。
異世界すげーな。
しかも、家族のいない独り者の冒険者はみんな酒場に繰り出してるし。
病み上がりに酒を浴びるように
青春騎士団のメンバーも酒場に集まっていたので騎士団の取り分の報酬を渡す。
アレスさんはあまりの金額の大きさになかなか受け取らない。
「せ、1200万ゴルダもあるんですけど本当に受け取っていいんですか?」
「取り分は半分って約束だったしね」
「倒したのはタナオカさんなのに……」
遠慮しまくりなアレスさん。
「みんなを守って戦っていたのはアレスさんなんだから受け取ってください。これで傷んだ装備を更新してください」
「装備の事があったんだな。では遠慮なく……」
装備の事を言ったらやっと受け取ってくれた。
アレスさんも結構いい人かもしれない。
こんな人なら、また一緒に仕事してもいいな。
「また、いい仕事があったら俺に紹介してください。一緒にやりましょう!」
「そのことなんだけど……タナオカさん、お願いです。青春騎士団に入ってくれませんか?」
スカウトだった。
「報酬は半々、いや4分の3がタナオカさんのものでいいのでお願いします」
「ニケからもお願い」
潤んだ目で懇願してくるニケさん。
受けてもいいんだけど、さすがに今回みたいなおいしい話はそうそう無いだろうし。
さすがに4分の3も俺が取ったら生活できなくなるんじゃないか?
俺はきっぱりと断る。
「ダメです。その条件ならお断りします」
「なっ! じゃあ、こちらの取り分は10分の1でいいので、お願いします!」
「逆ですよ。そちらが5人なんですから、俺も入れて6人。6分の1の均等割りなら受けますよ」
「そんなに貰っていいんですか?」
「いいんです。俺が戦闘するわけじゃないし、実際に戦闘している人が貰わないのはおかしいです。それにそんな条件の悪い仕事は長く続きませんよ」
「確かに……じゃあ、6分の1の報酬で仲間になってくれますか?」
「喜んで!」
こうして俺は信頼できる仲間を手に入れた。
今までの学生生活で仲間どころか友だちと呼べる奴なんて一人もいなかったので、俺が一番喜んでいたりする。
*
なんてカッコいいことを言ってるけど本当はさ、ニケさんと別れたくなかったってのが大きかった。
これだけ懐かれてるんだからもう少し頑張れば間違いなく彼女いやお嫁さんにだってなってくれるはず。
俺は都市伝説レベルに存在がレアな彼女というものを作って、膝枕されて癒されたいんだ!
それにメンバーたちに報酬を多めにやれば俺への心証がよくなるし、そうなればニケさんとの付き合いもメンバー公認で後押ししてくれるかもしれない。
そう、これが異世界での俺の生存戦略。
恩を押し付けて得を取れ!
初めての彼女を作るぞー!
仲間も出来たし彼女も出来そうだし、異世界はサイコーだぜ!
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