変異種

 ランタンを持ったニケさんの先導でダンジョンを進む。


 道中はなんの問題も無かった。


 正確に言うと、敵が出なかったわけじゃなくて敵が現れたその瞬間にアイテムボックスに収納しまくったのだ。


 俺の前では戦いにすらならなかった。


 俺の戦いっぷりを見て不安なはずのニケさんが笑っている。


「すごよ! タナオカさんすごーい!」


「すごいだろ?」


「私強い人が好きだからタナオカさんの事を本気で好きになっちゃいそう!」


 ニケさんは大きなお胸をブルンブルンさせながら抱きついてくる。


 とってもふわふわな物を押し付けられて思わず顔が赤くなってしまう俺。


 でもニケさんは見た目は美人なんだけど、美女特有の妖しさみたいなものは一切無くて天真爛漫な子供みたいな感じ。


 こんな天使みたいなニケさんに劣情を抱くのは犯罪以外のなにものでもないので自重した。


 *


 3層の袋小路で敵に襲われているアレスさんたちを見つけた。


 すごい巨大な金属の塊で人型を模した敵だった。


 身の丈3メートルは有るかと思われる金属の塊の魔物だ。


 それをアレスさん1人だけでケガをした仲間を庇いながら攻撃を耐え抜いていた。


 かなり長い時間戦っていたのか、他の仲間はみんな大ケガを負って動けない状態。


 ケガ人の中には見たことのない他のパーティーのメンバーも多く含まれていた。


 どうやら敵に襲われているパーティーに加勢したらしい。


 無事でいるのはアレスさんだけで救出に来るのがもう少し遅れたらヤバかった。


「これがアイアンゴーレムなのか?」


「アイアンゴーレムよりもずっと強い変異種のヘビーメタルゴーレムだわ! 普段は15層ぐらいにしか湧かないはずなのに、なんでこんな強い敵が3層に居るの?」


 すると死力を振り絞って戦っているアレスさんが謎の答えを教えてくれた。


「貴族のボンボンが倒せもしないのに討伐の名声欲しさにちょっかい掛けて下層から引き連れて逃げてきたんだよ。おまけにここで狩りをしている冒険者にゴーレムをなすり付けて逃げて行きやがった」


 とんでもなく迷惑な奴だな。


 でも今は余計な事を考えてる暇はない。


 俺は渾身の力を込めてヘビーメタルゴーレムを取り込んだ!


「消え失せて!」


 突如、俺の身体に伸し掛かる超重量!


 重金属の重さが俺の身体を潰しにかかった。


 そりゃ、高さ5メートルぐらいの大岩ぐらいの重さがありそうだからな。


 このまま取り込むのはヤバい!


 足や背骨が砕けそうだ!


 だが、止める訳にもいかない。


 人の命が掛かってるんだからな!


 ニケさんも応援している。


「タナオカさん頑張って!」


「ぐおおおお!」


 俺は渾身の力を込めて奴を取り込む!


 だが重い!


 重すぎる!


 ヘビーメタルゴーレムは俺の取り込みに抵抗して動きこそ止まっているもののビクともしない。


「コアを取り込め!」


「コアって?」


「奴の胸にある宝石みたいな物だ。そいつが無くなればゴーレムは動かなくなる。ニケも援護しろ!」


「はい!」


 ニケさんはアイアンゴーレムを駆け上る。


 ぶっとい腕で振り落とそうとするがリスの様に難なく避けている。


「サンダーストーム!」


 至近距離で雷の魔法付与した剣技をコアに仕掛けると麻痺の効果が有るらしくゴーレムの動きが完全に止まった。


 アレスさんから必死な声が掛かった。


「今がチャンスだ! タナオカさん! 取り込んで!」


「どうりゃあああああああ!」


 重い!


 コアだけでも重すぎる!


 こんなの取り込もうとしたら俺が潰れて死んでしまう。


 でも!


 みんなの援護があるんだ、きっといける!


 信じるんだ!


 俺を信じているみんなの気持ちを!


 俺は渾身の力で取り込み続ける。


 ここでいけなければ全滅だ!


「どりゃぁぁぁ!」


 するとフッと消える重圧。


 そして大きなものを取り込んだ感覚。


 ニケさんが再びコアに剣技を仕掛けてくれたお陰だ。


 俺はヘビーメタルゴーレムのコアを取り込んだ。


 コアを取り込むと同時にアイアンゴーレムの身体は単なる鉄屑となってガラガラと音を立てながら地面へと崩れ落ちた。


 バラけてしまえば一個一個の鉄屑はそれほど大きくないので、あとの収納は簡単だった。


 アレスさんが膝をつき息を大きく整えながら礼をいう。

 

「助かった。ありがとう」


「援護をしてくれたのでこちらの方が助かりましたよ」


 早速ケガ人を診るが動けない人が3人いた。


 アレスさんが仲間に指示を出す。


 その中にはアレスさんと仲のいい聖女のセレナさんも含まれている。


「マルク、すぐにケガ人を回復してくれ」


「無理だよ! 俺の回復呪文じゃ効きもしないしMPも尽きている! いつも大怪我は聖女のセレナに回復を任せていたんだけど、そのセレナが大怪我を負ってるし! でも助けを呼んでくるまで持ちそうもない。ど、どうすればいいんだよ!」


「助けを連れてくるのが遅れたら?」


「セレナが死ぬ」


「俺のセレナが死ぬだと!」


 仲間が死ぬと聞いて生気が抜け落ちたような顔をしているアレスさんに確認した。


「回復する奴が居れば助かるんだな?」


「街の教会の神官を連れてくればどうにかなる!」


「それなら!」

 

 俺は怪我人をアイテムボックスに次々収納した。


 目の前から仲間が消えて動揺しまくるアレスさん。


「み、みんなは?」


「けがをした人たちは俺のアイテムボックスの中です」


「ケガ人を生きたまま収納したのか?」


「ええ」


 逆転の発想だ。


 神官を連れてこれなければ、ケガ人を連れて行けばいい。


 しかも……。


「アイテムボックスの中では時間が止まりますから、街の教会まで連れて行っても時間経過は無いので問題ありません」


 鮮度保持は冒険者ギルドに放ったベアウルフとオネェバーで放ったおっさんたちで確認済みだ。


 それを聞いてアレスさんがあきれている。


「生きたものを収納出来るアイテムボックスなんて聞いたことがねえよ!」


「タナオカさん、すごいね!」


 どうやら俺のアイテムボックスは規格外だったらしい。


 *


 俺たちは大急ぎで街に戻り、教会でアイテムボックスから怪我人を取り出す。


 神官たちは突如現れた大勢のケガ人に驚きまくりだ。


「どこからケガ人が?」


「細かいことはいいから急いで治療してくれ!」


「わかりました」


 呼び集められた教会の神官たちの迅速な回復呪文で治療が行われケガ人は誰一人欠けることなく一命をとり止めた。

 

「ありがとう! 君は俺たちの恩人だ!」


「タナオカさんすごい! 私、タナオカさんが嫌がっても、みんなの命の恩人のタナオカさんの恋人になるって絶対に決めたよ!」


「恋人?」


 俺の素晴らしい能力を知ったニケさんに思いっきり懐かれてしまったようだ。

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