第55話 月下草と夜の森③
子供達が寝入った後、周辺は途端に静まり返り、ただただ時間だけがゆっくりと流れてゆく。
カリアナ達が何回目かの休憩に戻ってきた頃、
「ねえねえ、この子助けられる?」
子供達が寝入っている事に配慮したのか、メルは何時もより小さな声で
「おお、メル。お帰り」
瞑想と言う名の浅い眠りに落ちそうになっていた
「……っ、どうしたんだ?」
思わず大声を上げそうになった
「違う違う。そっちじゃなくてこっち」
「
「ジュエリビート?」
ジュエリビートとは宝石を含む原石に精霊が憑りついて生れ出る魔獣の総称で、
「これもかなりレアな存在ですけど、
カリアナは薬草採取の時を思い出したのか、
「この子助けられそう?」
目の前の状況から判断する限り、ジュエリビートが熊のような魔獣に襲われているところをメルが助けたのだろう。
「助けらられるかどうか分からないけど、やれることはやってみるよ」
「ポーションは効かないみたいだな……なら魔法はどうだ?」
「これも効いてないみたいだな……」
熊のような魔獣の爪によって裂かれたであろう背中の裂傷は塞がらず、ジュエリビートは弱々しく苦悶の声を上げるのだった。
「くっ、コルレットが居ればな……」
神力による癒しの力があれば、種族に限らず治癒することが可能なのだが、メルは悪魔の呪いによって猫人族化しているため、本来持っている神力を解放することができない。
「
カリアナは錬金術を使って
「ただ、このジュエリビートにどの成分が効くのか分からないので当てずっぽに頼るしかないですし、余分な成分を排除するので一本作るのに五本分のポーションを使うことになりますけど……」
普通の冒険者であれば、見知らぬ魔獣に高価な中級ポーションを費やすことはしないだろう。しかし、
「本当か? 少しでも可能性があるなら頼むっ」
「分かった。失敗しても文句言わないでよ?」
カリアナはそう言い残すと、受け取った中級ポーションを持って弟子達が休んでいる所へ戻って行った。
「この子、助かるかな?」
メルは布の上で苦しそうにうずくまっているジュエリビートの頭を指で
「何かあったのですか?」
外の騒ぎで目を覚ましたのか、簡易テントで眠っていたホズミが目を
「すまんホズミ、起こしてしまったか?」
眠っている子供達を起こさないよう配慮して事に当たっていたのだが、残念ながらホズミを起こしてしまったらしい。
「いえ、起きたのは私だけですので……そこに横たわっているのはジュエリビートですか?」
シェイラの守護獣として神から遣わされた九尾の狐であるホズミは、自身にとって遠い仲間となるジュエリビートを見て声を漏らす。
「そうだった……ホズミなら、この子の傷を癒すことができないか?」
ホズミの身の上を知っている
「……多分無理だと思います。私とジュエリビートでは成り立ちが全く違うので、私の魔力を供給することができません」
ホズミは期待に応えることができず、申し訳なさそうに答えるのだった。
「……でもっ」
ホズミはジュエリビートを救うことができるであろう唯一の方法を思い付くのだが、言い掛けて
「ホズミ。どんなことでも構わないから教えて欲しい」
「……ハイエルフであるシェイラなら、その子と契約し救うことが出来るかも知れません」
「ジュエリビートと契約を行うとシェイラに何か影響があるのか?」
「シェイラの持つ魔力量を考えればテイム自体問題はないと思います……しかし、シェイラはまだ魔力の扱いに慣れていないので……」
「どうしたの?」
ホズミの言葉を簡易テントから出てきたシェイラが
「あっ、魔獣の赤ちゃんだっ」
シェイラはメルの
「あっ、シェイラ。無暗に近づいては危ないです……」
「大丈夫だよ。この子良い子だもん」
又してもホズミの言葉がシェイラによって
「ねえマスター?」
シェイラはジュエリビートの頭を
「この子、私と契約したいって言ってるけど契約してもいい?」
シェイラとジュエリビートの相性が極めて高いのか、無契約の状態にも関わらず二人の間には念話の回路が繋がっているのだった。
「……」
「シェイラ、できそうですか?」
ホズミはシェイラの言葉を聞いて腹を括ったのか
「大丈夫だよ。シェイラ、いっぱい練習してるもん」
シェイラの意志が変わらないことを確認したホズミは自身の魔力を解放すると、シェイラとジュエリビートの契約を行う土台を作り出す。
「さあ、シェイラ。何時も通りにやってごらん」
ホズミの言葉に真剣な表情で頷いたシェイラは自身の魔力を解放する。
シェイラの体から溢れ出た濃厚な魔力は、ホズミの魔力に誘導されるようにジュエリビートへと流れていく。
「シェイラ、焦らないで」
ホズミはシェイラの魔力を感じながら適切に誘導を続け、時間が経つに連れシェイラとジュエリビートの魔力の色が混ざり合って同色に変わっていく。
「……終わった」
魔力が発する光が収まると無事にシェイラとジュエリビートの契約が結ばれ、シェイラの魔力供給によってジュエリビートの背中の裂傷も完治するのだった。
「うんうん。良かったねー、よしよし」
メルは傷が塞がり元気を取り戻したジュエリビートをモフモフと
シェイラは初めてのテイムで疲れたのか、その場にべったりと座り込んでいる。
「シェイラっ、大丈夫ですか?」
ホズミはシェイラを優しく抱き締めると、心配そうに尋ねた。
「うん、少し疲れちゃったけど、シェイラ大丈夫だよ。」
シェイラは満面の笑顔でホズミを上げるのだった。
「あれ? 何か終わってないですか?」
「あっ、カリアナの事忘れてた……」
「鬼、鬼畜、人でなしーっ」
夜明け前、薄明かりの夜空の下、いつの間にか
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