第7話 ガガモンズ家と崩落した橋
ミアの話によると、手の空いていたギルド職員数名が先駆けて現場に向かっているのに加え、東の森に常駐している騎士団が周辺警備と安全確保の為に団員を派遣しているとの知らせがあったらしい。
人が集まると、その匂いに誘われてか魔物が近寄ってくるので、
「
荷台の空いたスペースに座っていたミアは、立ち上がると前方を指差した。
土筆が指差された先に視線を移すと、多くの人影が確認できる。
「思ったよりも人が多いみたいですね」
ミアも
荷馬車が現場に到着すると、先行していたギルド職員の一人が駆け寄ってきてミアに報告を行う。
報告を聞いたミアは荷馬車をそのギルド職員に任せると、
「
ミアは
問題の橋は主に木材をベースとした造形魔法で成形されており、向こう岸まで二つの橋脚で支える構造になっている。
今回損壊しているのは橋脚と橋脚の間の部分で、原因は定かではないが、物の見事に崩壊してしまっていた。
幸いな事に橋脚自体に問題は無く、応急処置程度であれば荷台に積み込まれた資材で何とかなりそうである。
「
今まで邪魔にならないように後方で控えていたミアが尋ねると、
「ええ、何とかなりそうです……ところで、ギルド職員の方々に手伝ってもらう事は可能ですか?」
恐らく大丈夫だとは思いつつも、
「勿論大丈夫です。その為に此処まで来ているのですから!」
ミアは然もありなんと言わんばかりに即答すると、
大雑把な手書きでの作図で見るからにお粗末な出来栄えではあるのだが、依頼された内容の応急処置程度であれば十分である。
「
基本的には描かれた線に沿って木材を切断していくだけなので、難しい説明は必要とされなかった。
「おいっ、これはどうなっておるのだ!」
その招かれざる男は、足止めを食らい立ち尽くす人々を押しのけて前に出ると、作業しているギルド職員に横柄な態度で詰め寄った。
それに逸早く気付いたミアが駆け寄り、ギルド職員に代わり対応を始めると、その男はミアの体をいやらしい目つきで視姦する。
「ほぅ……お前が責任者か? 貴族である私に状況を説明したまえ」
ミアは嫌悪感を抱きながらも要求に応じて状況の説明を行うが、男は納得する気配を全く見せなかったのである。
仕方なく、
「ちょっといいですか? あちらで騎士団の方が打ち合わせをしたいと呼んでますよ」
「貴族様。ご用件でしたら、私が代わりに承ります。」
男は突然割って入って来た
「貴様は何者だっ!」
「これは申し遅れまして、大変失礼致しました……私は冒険者ギルドからの依頼を受けて派遣されました
「ふんっ……庶民である貴様の名前などどうでもいいっ! さっさと私を向こう岸まで案内せんかっ」
男は横暴な態度をエスカレートさせると、体を支えていた杖で威嚇っぽい動作を取る。
「私と致しましても、今直に貴族様を対岸までお送り致したいところで御座いますが、何分、橋が崩落して居りまして……」
この男は気が短いのだろう。
自らの要求が拒まれた事に対し青筋を浮き立たせると、振り上げた杖を勢いよく地面に叩きつけ、声を荒げて食って掛かる。
「それを何とかするのが貴様の仕事ではないのかっ!」
「それでは……今から私が丈夫な板を一枚選びまして崩落した部分にお架け致しますので、貴族様はその板の上を歩いて向こう岸まで渡られるというのは如何でしょうか?」
「貴様にはガガモンズ家の紋章が入ったあの馬車が見えんのか?」
自分よりも身分の低い者に対しては、とことんマウントを取りたがる無能貴族に有り勝ちな展開に、
「馬車ですか……それならば、もう一枚丈夫な板が必要になりますね……招致致しました。貴族様の為にご用意させて頂きます」
やはりこの男は気が短いようだ。
「きっ、貴様はふざけているのかっ?」
今日一番の飛沫が撒き散らされる中、興奮した男の頭から
この世界でも貴族は
何故なら、このガガモンズ家を名乗る男の
この騒ぎを遠目に見ていた人集りからクスクスと忍び笑いが漏れる中、先ほどの従者が落ちた鬘を拾おうと手を伸ばすと、ガガモンズ家を名乗る男はその体型からは想像もつかない速さで
「…………」
気まずい空気が漂う中、動くに動けなくなったガガモンズ家を名乗る男を前に時間の無駄を悟った
「貴族様……あちらで従者の方が戻られるのを待っておられるようですが……何かご報告でもされたいのではないでしょうか?」
多少は興奮が収まったのか、はたまたこの場に居ずらくなったのかは定かではないが、ガガモンズ家を名乗る男は馬車の方を振り向くと、小物らしい台詞を吐き捨て去って行くのだった。
「
深々と頭を下げるミアに対して、
「俺、何かしましたっけ?」
ミアは少しだけ驚いた表情で
貴族が立ち去った後は、これと言った問題も起きずに作業は滞ることなく進んだ。
程なくして、通行の重みにも耐えられる強度を誇る橋板が出来上がるのだった。
「皆さん、ありがとうございました」
この紫色の液体は魔素を多く含んだ薬草から抽出された成分で、淒まじく苦いが魔力回復の効果がある飲み物だ。
顔を歪める
色合いが淡青から淡黄へと変化し、魔方陣が集束し爆ぜ散ると、魔力による煙霧の後には複数の黒茶色の片腕が現れるのだった。
「呼び掛けに応じてくれてありがとう。早速だけど、橋の修復を手伝って欲しい。頼めるかな?」
すると地妖精達は元気よく拳を突き上げ、用意された橋板を持ち上げて橋の方へ移動を始めるのだった……
先ほど呼び出した地妖精達は、言うなれば野良の妖精で、特定の人物との契約は行わず、自然の中で自由気ままに漂っている妖精達である。
彼らは精霊魔法などによって術者が呼び掛けると気まぐれに応じ、その都度代償として魔力を受け取ることで生存しているのだ。
それに対し、地妖精ドニは
特定の術者と契約をしている妖精としていない妖精の決定的な違いはユニークスキルの有無である。
ユニークスキルとは契約している精霊と術者との相性で発現する唯一無二の特別なスキルで、地妖精ドニのユニークスキルは、限られた範囲の地属性物質の状態変化を行うことが可能だ。
同じように対岸側の接点も硬化させ固定すれば、後は崩落部分に架けた橋板から人が落ちないように
「後は
ミアも同じ事を思っていたらしく、
本来であれば通行再開は
しかし、
橋の上で通行人が見守る中、何とか獣人の親子まで泳ぎ着いた
「おいっ、何だあれはっ!」
通行人の一人が川上から鉄砲水のような水の塊が押し寄せて来ているのを発見すると、指差して大声で叫ぶ。
「おいあんたっ、急げっ!」
津波のように迫り来る水の塊を前に、必死に岸まで逃れようとする
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