秋の天窓

あたりはすっかり夜になっていた。

酒井がいる場所は木々に囲まれているせいで、はっきり確認できないが近くの東京タワーにもライトが灯っていた。

酒井は上を見る。上に広がるのはただの暗い夜空で、いつものように星は1つもなかった。


「たしか今日は満月だったかな」

せめて月だけでも見ようと、木々の隙間から月を探す。上を向きながら辺りを歩いていると、足が何か硬いものに当たった。

それは錆びた鉄のドアノブだった。ドアノブが地面から突き出ている。


ドアノブ?酒井は好奇心が止められなくて、それに手をかけて右に回し思いっきり引っ張る。


バン!とドアが開いたと思ったら、中からワァー!と声が聞こえる。その声はだんだん大きくなり、遥香たちが外に出てきた。


遥香はゼェゼェと息を吐きながら、その場に座り込む。遥香たちを追ってきた星たちはそのまま夜空に昇っていく。瞬く間に、東京の夜空に無数の星が蘇ってくる。天の川銀河の星空が東京を覆い尽くす。


「綺麗…」遥香も酒井も、ただその言葉しか出てこなかった。その言葉以上の感動を、伝えられる言葉を持っていなかった。


「遥香、大丈夫か?」酒井が手を差し出す。

「大丈夫だよ、ありがと」その手を取って、遥香は立ち上がる。


その日は、秋の夜空だった。

秋の夜空には、秋の天窓と呼ばれる四角い星座がある。その天窓から天使たちが地上を見ていると伝えられている。

その日も、天使たちが遥香たちをしっかりと見下ろしていた。

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