理科室

「これ、調べてほしい」遥香はそっと机の上にシュークリームを置く。


それは今朝母親からもらったものだ。

「食べなくていい、これはお守りだから。遥香を危険から守ってくれるシュークリームなの」と母は言った。


「シュークリームの成分なんて調べてどうんすんの?」とぶつぶつ言いながら白衣を着た男子学生は、顕微鏡でシュークリームの皮の切れ端を調べ始めた。


この男子学生は名前を酒井と言う。

遥香の小学生からの友達だ。

科学が大好きで実験ばかりしていた。


母からもらったシュークリームが一体何なのか知りたくて、放課後いつも理科室にいる酒井のところに来た。


「これ、花崗岩と同じ成分だよ」と酒井は顔を上げずに言った。

「なに、それ?」

「よく、建物の石材として使われる岩のこと。日本だと墓石とかが多いかな」

「墓石?」

「遥香さ、これ食べてないよね?」

「食べるわけないよ」遥香は首を横に振る。


「中のクリームも調べていい?」

「うん、お願い」

酒井がピンセットで皮を剥がすと、とろっとクリームが出てくる。でもそれは白いクリームではない。緑色をしていた。


緑色のクリームを2人が目にしたちょうどその時、理科室の電気が一斉に消えた。

「なに?停電?」

黒いカーテンで締め切っていたせいで、真っ暗になる。


でもすぐに、暗闇の中で一筋の光が現れる。それは緑色の光だった。

「シュークリームが光ってる?」


最初はぼんやりと淡い緑の光だった。

でも少しずつ濃い緑になり、ビュンっと一直線に窓の外に向かった。

シュークリームから放射された緑の光は、真っ直ぐにどこかを指し示していた。


遥香と酒井は、その光の方を目指す。

シュークリームを右手に持ち、カンテラのように前を照らす。真っ暗な理科室の中で、シュークリームだけが頼りだった。

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