第51話 雑談枠

「はい始まりました~月日との雑談枠~」

「はいこんばんは夕暮月日でーす」

「はいこんばんは林檎みかんでーす」


 水都の配信が終わった直後に行われた、夕暮と林檎のコラボ配信。

 スケジュールにはなかった、いわゆるゲリラ放送と呼ばれるものである。


 内容はもちろん。


「やべー新人出てきたなって感じだよね」

「やばい新人というか、まあ月日にとってはやばいというか……」


 題材はもちろん、『政木のことが好き』と言っていた新人Vtuberのことである。


「え、みんな見てたよね? いや、見てなかった人にも一応言っておくと、まあなんだね簡単に言うと」

「月日に恋敵ができたんですよ。しかも相手は政木さんと同じ事務所」

「そうなんだよぅ……」


 露骨に落ち込む素振りを見せる夕暮。

 これにはリスナーも『まあ夕暮さんでは……』『力に差があるな』『相手の方が100倍清楚っぽかった』などと夕暮の心の中を口にするコメントを多くしていた。


「まあ月日」

「なんだよみかん」

「諦めましょう」

「応援してくれるんじゃねえのかよ⁉ つーか諦め早くね⁉」


 ポンポンと肩を叩いて慰めるように見せかけ、諦めを促す林檎。


「大丈夫ですよ。きっと諦めたほうが楽になれます」

「何が大丈夫なのかいちから説明してもらおうか?」

「祇園精舎の鐘の声~諸行無常の響きあり~」

「みかんお前、どうでもいいと思ってないか?」

「ぶっちゃけ水都さんをどうやってコラボに誘って、どういう企画をやろうかしか考えてないです」

「お前を心の友だと思ったわたしがバカだったよ……」


 夕暮を突き放すようなことを口にする林檎。

『血も涙もビタミンCも入ってないよこの林檎……』『人の地獄を見るのが好きな林檎さん』『さすがにこれは夕暮にも同情しちまうわ……』とリスナーも林檎の鬼畜っぷりにドン引きしていた。


「ちなみに裏で政木さんに聞いたんですが」

「ほう?」

「水都さんは政木さんにオフで会ったことがあるらしいですよ」

「なぜそれを今このタイミングで言った?」


 追撃をする林檎。


「あぁ、リスナーさん安心してくださいね。月日にも必ずオフコラボをさせますから。今はそのための種をまいている段階ですから」

「本人の前で言っちゃうかなそれ」

「早くオフコラボをしろという友人からの圧でもありますからね」

「お前のことはもう友人だとは思っていないがな」


 冷静なツッコミに回る夕暮。

 彼女がツッコミに回るときなど、林檎が相方にいるときくらいだろう。そう考えると、彼女たちの相性の良さは確固たるものなのだが……。


「でも月日。もしあなたが本当に彼女に勝って政木さんに好かれたいのなら、ひとつやらなければならないことがあります」

「おお、なんだそれは。聞かせてもらおう」

「いいですか…………Twitterで水都さんのことをフォローして下さい」

「Twitterで……? そんなことでいいのか?」


 拍子抜けした様子の夕暮に、林檎は「はい」と答える。


「いいですか。まず先んじてフォローをしておくことで『わたしあんたなんか眼中にないから』という意志をアピールできます」

「ほう、何故だ?」

「だって月日、絡んだことのあるVtuberさんは大体フォローしてるでしょ? だからそれと同じようにフォローすることで、『いつも関わってるVtuberと変わらないから』って言うことができるんですよ」

「なるほど」


 ちなみに夕暮は政木のTwitterだけはフォローをしていない。その理由は、『夕暮が見てる』と思わせないようにすることで、あわよくば自分のことを話さないかなあとアホみたいな妄想をしているからである。

 ちなみに裏アカウントではしっかりフォローをしている。(なんなら通知も飛ぶ)


「そしてもうひとつこの方法には利点があります」

「それはなんだ?」

「これで例えば相手からフォローが飛んでこなかったとしましょう。そのときリスナーは水都さんのことをどう思うでしょうか?」

「どうって、別にどうも思わないんじゃないか? そもそも誰が誰をフォローしてるかなんて誰も気にしてないだろ」

「これが意外と気にする人がいるんですよ。そして水都さんはリスナーにこう思われてしまうはずです。『恋敵を認めることができない小心者』だと」

「……ほう」

「そうすれば、月日の方が余裕が出てるように見えるでしょう? 自分は率先してフォローしてるのに、あっちはフォローしてないという状況になるんですから」

「なるほど…………! それはたしかに妙案だな! みかん、お前天才か?」


 2人で雀の涙程度の策を練る。

 その光景を見せられているリスナーは『こいつらバカなんじゃねえかなって』『それを配信で垂れ流してどうする』『せこくて草』などと呆れた目で見ている。


「よし分かった。みかん、その案乗ったぜ!」

「じゃあ早い方がいいです、今すぐにやりましょう」

「おうっ」


 ご丁寧にTwitterの画面を載せる夕暮。


 だが、しかし。


「あっ!」

「どうしました?」

「……もうすでにフォローされてた……。3時間前に…………」

「はいそれではおつみかーん」

「おい、どどどどどうすんだよこれ。おい~‼‼‼‼‼」

「さよなら~」


 結局林檎が立てた策は、意図してか意図せずしてか先に水都にやられていた。


 そして夕暮は結局、水都のことをフォローし返さなかったという話でTwitterは盛り上がっていた。

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