第56話 なぜか始まった宴会

「……」


 なぜ、こんなことになったのか。町の広場で行われる収穫祭のような宴会を、俺は茫然として眺めた。


 彼らの席をすり抜けて、自分の席へと向かって歩くと、ほぼ村全体の人間が集まっていることが分かってしまう。その中には、エレンの姿もあった。


「あ、ニール! こっちこっち!」

「悪いけど始めてるっすよー」


 イリスとアンジェが手招きしていたので、呼ばれるまま彼女たちの席へと向かう。そこにはサーシャとモニカも居た。


「いやあ、まさかこんなに人が集まるとはねえ」

「いただいてるね、ニール」


 何があったかというと、イリスとメイがガロア神父とダイク村長に話をしたところ、追加で食材を持たされ、そして食べきれない為彼らを誘ったところ、ネズミ算式に食材と人が集まってしまい。人が多いため村の広場に場所が移り、目立つ場所だったので更に人が集まり……という事らしい。


 らしい。というのは、もう既に俺の管理を越えているからで、正確にはどうなっているか分からない。


「今回はお誘いいただき、ありがとうございます」

「あ、ああ……」


 どうやらギルドの出向職員たちも招待されたらしく、ルスト会長が会釈をして通り過ぎて行った。


「どうかした?」


 困惑しつつも、目の前にある豚の切り身をかじっていると、サーシャが声をかけてくれた。


「いや、なんか……何でこうなったんだろうってな」


 素直に疑問を口にすると、サーシャは少し笑って果実酒に口を付けた。


「人生なんていつもそんなものよ。私だって、今こんなことをしているなんて、数年前までは思わなかったもの」


 その言葉に哀愁を感じて、俺は彼女を見る。


 そういえば、彼女は俺達と出会う前、誰ともかかわらず人生を終えようとしていたのだ。その生活がどれほど続いていたのかは分からないが、きっと、それがこのまま終わると直感出来るほどの間だったに違いない。


「……」

「まーた何か考え込んでるわね?」

「いや――まあな」


 否定しかけるが、サーシャの目はごまかせないだろう。


「別に悲しい生き方をしていたわけじゃないの、それはいつも言っているでしょう?」


 サーシャは笑う。その姿を見て、俺も果実酒を口に含んだ。酸味と甘みの中に、確かなアルコールの苦みを感じて、俺は息をつく。


「消化試合をしていたら、思わぬボーナスタイムが発生した。それくらいに思っているわ」

「そうか」


 なんとなく、彼女は本当に思っているのだろう。だから俺はそれ以上何も言わないことにした。


「なんにしても、食うか」

「そうそう、そのほうがいいわ」


 俺はこれ以上下手な事を言わないために、目の前の食べ物を頬張って口を塞ぐことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る