第50話 両親の記憶
「っ!?」
思わず左目の眼帯を抑えて後ずさる。
「ははは、半分は冗談ですよ」
ルスティノス会長は笑う。半分は冗談っていう事は、もう半分は本気って事だぞ。
「私は珍しいものには目がなくてですね、特に遺物は所有したいとずっと思っているのですよ」
遺物は現在所在が分かっているのが、イクス王国の両脚と、アバル帝国の右手、オース皇国の肋骨と右目の四つ……いや、両脚は左右別で数えるから五つか。
それに加えて、少数民族同盟に置いてきた口、カインが持っている左手、俺が持っている左目、そしてイリスが持っている背骨で合計九つだ。
「……何にしても別をあたってくれ、俺はこれが無いと生活できない」
教会によれば遺物は全部で十二あるらしい。ということは、あと三つの所在が未だに不明となっている。別をあたってくれ、というのは、残る三つを見つけてくれ、という意味だ。
「でもそれ、お金さえあれば解決できるのでは?」
軽い調子でルスティノス会長は提案する。しかし、その調子とは裏腹に、彼の目が笑っていないのを、俺は気が付いた。
「……だとしても、これは村民からの信頼の証だ。金に換えられるものじゃない」
「んー残念ですね、別をあたる事にしましょう」
彼はそう言ってから、エレンに恭しく礼をして、去っていく。商人特有の胡散臭さというか、したたかさを感じるが、俺にはそれだけのようには思えなかった。
「ニール、随分疲れているようですね」
ルスティノス会長の後姿を視線で追っていると、エレンが声をかけてくれた。
「先日報告しに来た時もそうですが、何かあったのですか?」
「いや、別に……あっ」
そう答えてから自分の失敗に気付く。幼いころからの付き合いだった彼女には、嘘は通じないのだ。
「なるほど、あなたがそう言うときは、何かがあった時ですものね」
「あーその、だな、そういう訳じゃなくってだな」
「ふふっ、それでは今夜、領主館まで出頭するように」
そのままエレンは護衛を引き連れて帰って行ってしまう。夜ってことは、ユナも一緒だよなあ……
「……」
自分の中にある復讐心に、恐怖を感じている。既に恨む対象は死んでいる。だが、それは母親だけではなく父親をも無くしたということだ。
両親は俺をコスタの森で捨てた。そう思っていたが、実際はそうではなかった。無関心だった両親への感情が、郷愁と復讐心に代わり、その両方をぶつける相手がもうこの世にいない。心の中でくすぶり続けるこの行き場の無い感情は一体どうすればいいのだろうか?
エレンが去っていった方向を見つつ、俺はそんな事をぼんやりと考えた。
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