第49話 ルスティノス・ドラン

 三人に食事を振る舞った次の日、俺はギルド支部が完成したと聞いて、村の広場を訪れていた。


 目の前には、木造の大きな建物が出来上がっており、その入り口にはギルド支部を表す印章が彫られている。内部は伺えないものの、依頼を貼りだす掲示板や、事務処理を受け付けるためのカウンター、そして軽食の取れる酒場があるはずだった。


「随分大きい建物を作ったな」


 ギルド支部の三角屋根を見上げているエレンに声をかける。


「ニール、ひさしぶりですね。ギルドの建物に関しては、ドラン商会が協力を申し出てくださいましたの」

「へえ、ドラン商会が」


――ドラン商会。

 エルキ、オース、アバル、イクス、それに加えて少数民族同盟、その全てで商業を行う大規模商会だ。たしか会長は不死種で、そのお陰で安定したトップダウン型の運営ができているらしい。


「今日は落成式ですので、出資者であるドラン商会の会長、ルスティノス・ドラン様がいらっしゃる予定なの、ニールも顔を合わせておくといいわ」

「あれ? 会長ってたしか不死種だろ、夜中にやるのか?」


 不死種は太陽を嫌い、陽光を浴びると身体が崩壊してしまう。だからユナもこの場にいない。


「やあやあ、領主様、ご機嫌麗しゅう」


 俺が疑問に思っているうちに、別の方向から陽気な声が上がった。そちらを見ると、褐色肌とウェーブの掛かった黒髪が印象的な、いかにも好青年という感じの男がこちらに向かって歩いて来ていた。


「どうでしょう? このギルド支部は。引き続きご贔屓にしていただければ、我々は投資を惜しみませんよ」

「ありがとうございます。それは家臣たちと協議したうえで決めさせていただきますわ、ルスティノス会長」


 会長、と言われて俺の中で思考が引っかかる。あれ、じゃあドラン商会の会長って、不死種じゃないのか?


「ちょ……エレン、会長って……」


 エレンにこっそりと聞いてみるが、ルスティノス会長と呼ばれた男が彼女より先に応えてくれた。


「そっちの方はもしかしてニール様かな? 噂は聞いていますよ。私はルスティノス・ドラン。ドラン商会の会長にして、不死種のさらに変異種(ミュータント)です」


――変異種。

 この世界には不死種や魔物、亜人など様々な種族が存在するが、その中でもさらに特異な個体が生まれる事がある。


 それは巨大化だったり凶暴化、知性の著しい発達など、はるかに強力な個体であるそれは、場合によってはギルドに討伐依頼が出される事もある。


「……と、いっても私の能力は不死種特有の筋力と代謝を犠牲に、太陽の下を歩けるというものなので、そんなに軽快なさらず」


 一瞬身構えた俺の動きを見逃さず、ルスティノス会長はことばを付け足して、右手を差し出してきた。


「あ、ああ、よろしく」


 その手を握ったところで、ルスティノス会長の唇がかすかに動く。


「……その左目、いくらで売ります?」

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