閑話:最後の冒険8
地響きと土砂は、地面が崩落したことで発生していた。
どれくらい落ちたのか、見当もつかないが、少なくとも元の場所に戻ることはできないだろう。
「ちっ……」
何事にも「たら」「れば」は無いのだが、もし俺が加速を使用せずあの場を切り抜けていたら、モニカを抱えて逃げることもできただろう。
土埃に塗れて、頭から血を流すモニカに回復魔法を使う。頭部の負傷でも回復魔法ならすぐに治療できるのは強みだ。
難点は……強いて言えば、目覚めるまで時間がかかるという事か。俺は非常用の魔法灯をカバンから取り出して、周囲を青白く照らした。
「死ぬかと思ったっす! モニちゃんとニル兄は無事っすかね!?」
「アンジェは丈夫ねえ」
外套を使ってモニカをくるんでやったところで、近くで声が上がった。幸いなことに二人は無事なようだ。
「サーシャ、アンジェ、こっちだ」
手を振ってやると、二人は俺に気付いて駆け寄ってくる。
「おお! ニル兄も無事っすか!」
「ああ、俺は大丈夫だがモニカが負傷した。回復魔法は使ったが、目が覚めない……カインは?」
そういえば姿が見えない。アイツは運だけは良いから死んではいないだろうが、姿が見えないのは違和感がある。
「……」
サーシャが親指で指差した先に、うなだれているカインの姿があった。
「おい、どうした」
「っ……何でもねえよ、しばらくほっとけ」
珍しい。
自分の不注意でこうなったのを、気にしているそぶりを見せるのは、長い付き合いで初めてのように思えた。
「そうも言っていられない。相手は二重の罠を仕掛けてきた。さらに続く何かがあってもおかしくない」
あれほど大規模な崩落だ。少なくとも魔物は、俺たちの死肉を漁るか、とどめを刺すためにこちらへ向かっているだろう。
「うるせぇよ、ほっとけっつってんだろ」
「そういう訳にもいかない。モニカが負傷して意識がないんだ。これ以上の欠員は俺たちにとって致命的だ」
このダンジョンは、俺たちの実力では五人が最低限安全に動ける人数だった。モニカが一時的とは言え戦線離脱している今、人数が減る事は危険度がかなり上がる事になる。
「……」
しかし、カインは俺の言葉に反応を返すことなく、じっとうなだれたまま、小さく唸り声を上げるだけだった。
「カイン! お前いい加減に――」
「ニール、戦闘態勢を取って」
掴みかかる寸前に、サーシャの声が響く。周囲を警戒すると、重苦しい息遣いが複数周囲から聞こえてきた。
「ちっ……もう来たか」
「グルルゥ……」
次に見えてきたのは赤い瞳、そして黒くねじ曲がった角を持つ牛頭。その姿を見て、俺は魔法灯を握る手に汗が滲むのを感じた。
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