閑話:最後の冒険2

――領主館の警備

 帝都ヴァントハイムに滞在する地方領主からの依頼。スラム街が不穏な動きをしており、滞在中の警備を頼みたい。

 報酬:一日に付き金貨三枚



「帝都……」


 モニカがあからさまに嫌そうな顔をする。まああそこではあんまりいい思い出は無いからな……


「そもそもヴァントハイムから俺たちは来たんだぞ、何でとんぼ返りしなきゃいけないんだ」


 依頼でやらかして、半ば逃げるような形で出てきたのだ。わざわざ帰る理由が思いつかないし、あまりにもリスキーすぎる。しかも旅費や警備するにあたっての追加出費を考えると、二週間は警備をすることになる。


「いやあ、鉄盾焼きが食べたくなっちゃって」

『却下』


 でへへと笑うアンジェに、カインを含む全員が口をそろえる。まさか食い気で仕事を選ぶとは思っていなかった。


 ちなみに鉄盾焼きとは、盾を模した鉄板で、スパイスや塩をこれでもかと振った肉を、豪快に焼いたヴァントハイム名物だ。元は戦地で調理器具が無かったゆえの策だったらしいが、今ではそれは見る影もない。


「むぅ……となると、モニちゃんはどうなんっすか?」

「わたしは……」


 モニカはおずおずと、几帳面に畳まれた複写を取り出した。



――魔導書鑑定

 ルクサスブルグ共立図書館からの依頼。

 閉架図書の整理をしていた際、出自不明の本が発見された。鑑定を頼みたい。

 報酬:銀貨五〇〇枚、廃棄予定の魔導書・触媒で欲しいものがあればいくつか貰っても構いません。



「……これ」

「いや、モニカと俺しかできないだろ、この仕事」


 鼻息荒く提示するモニカに、俺は冷静なツッコミを入れる。五人もいるのに、二人だけしか役に立てない依頼を受けるのは、非効率だ。


「でも、古代の触媒とロマンが……」

「だいたいこういう廃棄予定の物はジャンク品ばっかりだから、精々素材取りくらいにしかならないぞ」


 確かに知識欲をくすぐられるものだが、大概そういう「ロマンあふれる逸品」は廃棄などにならず、職員の懐に入っているのだ。期待してはいけない。


「むぅ……」


 モニカが不満そうな顔をするが、この依頼は明らかに俺たち向けではないのだから、仕方ないだろう。


「てかニール。さっきから文句ばっかじゃねえか」

「そうね、さぞ良い依頼を見つけてきてるんでしょうね?」

「おいしいもの食べられる依頼がいいっす!」

「古代のロマン……」


 四人に詰められて、俺は満を持して依頼の複写を広げる。


「これなら、収支も破格で難度も低く、おまけに人数が多いほど有利だ」



――薬草採取

 この村の薬品店からの依頼。

 近々大規模な発注があるので、薬草数種類の採取を依頼したい。品目は別紙参照。

 報酬:品目によるが、一キロにつき金貨一枚以上を保証する。



『却下』


 満場一致の言葉に、俺は思わず動揺する。


「いや、待てお前ら! 品目を見たか? こんな簡単な依頼で報酬は破格だぞ!?」


 そう、五人で丸一日かければ金貨五〇枚は固いのだ。どう考えてもやるしかないだろう。


「鉄等級以下がやるような仕事だろ、論外だ」

「野草摘みはいつでもできるしねえ……」

「肉じゃないんで嫌っすね!」

「虫がいそう」


 ……なんで、みんなこの依頼のおいしさに気付かないんだ!?

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