第22話 志藤陸

「あーいいよいいよ、僕が全部やる。君たちはシズ姉さんを何とかしてやってくれ」


 志藤家に到着し、シズは使用人に連れられて別室へ連れていかれる。その姿はどこか安心しているようで、俺は少し不思議に思った。


「彼女が気になるかい?」

「え、あ……はい、少しだけ」

「安心してくれ、彼女は僕の義姉だからね」


 その言葉だけは真剣で、リクのあからさまに怪しい雰囲気が少し晴れたように感じた。


「それより、そんなに畏まらなくていいよ、冒険者は舐められたら終わりだろう?」


 だが、その様子はすぐに搔き消えてしまう。彼は俺とサーシャを客間まで通すと、座るように促してくれた。


「それは――助かるけど、そもそも、あんたは何なんだ?」


 畳と呼ばれる床材が敷かれた部屋で座り込むと、俺は単刀直入に切り出した。


「うん、難しい質問だね……とりあえず、君が知りたいであろう情報を全て列挙するなら……志藤家の当主で、桐谷静の妹の婚約者で、この同盟領最強の陰陽師――ああ、西方では魔法使いだっけ? そして、DSF第六烙印のジン=クライファングの遠戚にあたる男さ」


「……な、なんて?」


 思考が一瞬停止する。理解が追いつかない。落ち着いてひとつずつ噛み砕こう。

 志藤家の当主って言うのは分かる。そして、シズの事を姉さんと呼んでいたのは、妹が婚約者だからで……


 そんでもって魔法使い……ということは、あの雷属性の魔法はリクによるものだったわけで、あの罪源職をシズがああ呼んでいたのは、リクと彼が遠戚で、だから家名が同じという事なのだろう。


「大丈夫かい? ついでに君たちを助けた魔法は――」

「あー、ちょっと待ってくれ、情報が多すぎて処理しきれない」


 なんだか頭痛もしてきた。けらけらと笑いつつ、リクは「君の聞き方が悪いのさ」と笑っている。


「とはいえ、僕のことはある程度分かっただろ? シズ姉さんは責任をもって介抱するよ」


「いや、治療は――」

「一週間」


 ジンの遺物を奪おうとしていることを伝える前に、リクは言葉を遮って指を立てた。


「これから先、僕の家臣にいる治療師たちを呼んでシズ姉さんの傷口を保全する。寝ずの交代で続けるから、一週間が限度、それ以降は医術と回復魔法で傷口を閉じる。だから、それまでにジンから遺物を奪ってくれ。できないなら……」


 切れ長の眼から鋭い光が覗く。その光は、どんな刃物よりもぞっとするような輝きを持っていた。


「君達を、許さないよ」

「――っ」


 飄々とした軽薄な表情の下には、想像もできないような憎悪と憤怒が渦巻いている。


 妻を殺され、義姉の片足を食らった罪源職への感情が生易しいものである筈が無いのだ。


 だからこそ、俺は頷くしかなかった。

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