第21話 何が起きても、最善の対応を2

「……だが、どうするつもりだ?」


 シズは変わらず自嘲の混じった声音で話す。それはそうだ。考えなしの希望を提示したところで、彼女の心に響くはずもない。だが、俺には勝算があった。


「ジンが持っていた遺物、アレを使えば再生できるんじゃないか?」


 そう、腕を切り落とされても、どれだけ失血しても、あいつは遺物を使う事ですべてを再生させていた。そうだとすれば、遺物を奪ってシズが使えば、左脚の再生も可能じゃないかと思ったのだ。


 実際、あの罪源職から一度は遺物を奪えたのだ。不可能ではないはずだ。


「なるほどね、何にしても私達はあの罪源職をどうにかする必要があるから、寄り道にもならないわね」


 サーシャがそう続ける。そうだ、やる事は変わらない。ただ、タイムリミットができただけだ。


「奴を甘く見るな、無理に追いかけても死体が増えるだけだぞ」


 しかし、シズはあくまで現実的だ。確かに今の状況で何の策もなく、遺物持ちの罪源職に挑むのは自殺行為だろう。


「楽観的な思考はするな、冒険者にとってそれは――」

「はぁー、ヤダヤダ、シズ姉さんってば暗いんだから」


 木々の隙間から声が聞こえてくる。そちらの方向を見ると、倭服(倭国の伝統衣装)に身を包んだ長身の男が立っていた。


「リク……」

「見てたよー、危なかったよネ、間一髪、ジンに食われるところだったじゃないか、ニール君に助けてもらってよかったネ」


 男は軽薄な笑いを浮かべつつ、俺たちに向かって頭を下げる。


「やあ、ニール君にサーシャ君、僕は志藤陸、気軽にリクと呼んでくれ、すぐそこの志藤家を率いる当主――ああ、西方的には領主って言ったほうがいいのかな? まあ、それだよ」


 領主というにはあまりにも飄々としていて、胡散臭い。俺の直感がこいつは裏の顔があると言っている。


「何にしても、こんなところに怪我人を放置するのも、立ち話するのもアレだし、良ければ僕の屋敷まで来るといいよ、お茶菓子も用意するしネ」


 そう言ってリクは遠くに見える大きな屋敷を指差し、シズを担ぎ上げた。


「おいっ! 離せっ!」

「んー、シズ姉さんちょっと痩せた? ……って片足持ってかれたから軽いのか、そりゃ当然だ」


 アハハと枯れ葉のように軽い笑い声を響かせながら、リクは歩き出す。


「……あら? そういえば私達、名乗ったかしら」

「そういえば、名乗ってなかったよな? ……何にせよかなり癖が強い相手みたいだし、警戒していこう」


 俺とサーシャはあからさまに怪しい相手を警戒しつつ、彼の言う通りに志藤家の屋敷へ向かう事にした。

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