第13話 喪服の剣士

 少数民族同盟は、エルキ、イクス、アバル、オースどれとも違う文化形態を持った民族で構成されている。


 冒険者ギルド本部はその中でも、特に発展した二つの民族「倭」と「華」による共同統治によって作られた都市の中にあった。


「来るのは久々だな」


 野営をした翌日、日も明けきらないうちから出発した俺たちは、太陽が中天に登る前に本部へとたどり着いていた。


 木造で、優美な曲線と木工彫刻による装飾で彩られたギルド本部は、書類や魔導文があちこちに飛び交い、見るからに忙しそうだ。


「私は初めてね、ギルド本部なんて興味もなかったし」


 銅等級以上のパーティになるときは、必ず一度はギルド本部で、身元証明の書類を作成しなければならない。


 サーシャが仲間になった時にはすでに銅等級の評価を貰っており、彼女はそれ以後にパーティへ加入したので、来た事は無いというわけだ。


 受付でギルド支部の新規申請をする書類を提出すると、番号札を渡されて呼ばれるまで待たされることになる。


 俺たちはその間、用意された椅子に腰かけて時間を潰すことにする。


「ふぁ……暇ね」

「まあ、たまにはこういう時間があってもいいだろ」


 最近はひたすら忙しい、息をつく間もないような日々が続いていた。ガロア神父にイリスを紹介したり、訪れた新しい住人への手続きやトラブルの解決、家の増築申請など、やる事はひたすらたくさんあったのだ。


 コスタからここまでの旅路だって、人間の文化圏から外れた道をずっと歩くのだ。安心して気を抜けるタイミングというのは、本当に久しぶりだった。


「二九八番の方、窓口までお越しください」

「お、呼ばれたな」


 魔導拡声器で番号を呼ばれ、俺とサーシャは窓口へと向かう。


「ギルド支部の申請ですね」


「ああ、俺が領主の信任を得た冒険者のニールで、こっちがエルフのアレキサンダー。集落の発展具合と、地理的にもギルド支部を置くのは妥当だと思うが……」


 オース皇国=エルキ共和国の通商路、発展具合も教会があり、領主館も近い。近くにギルド支部もなく、ここに設置するのは妥当である……といったことが申請書類には書いてあるらしい。


「確かに、こちらで精査したかぎりは許可を出すのが妥当で、職員を派遣すべきなのですが、現在仕事が立て込んでいまして、かなり遅れると……」

「ああ、それは構わない。だが、いつもこんなに忙しないのか? 数年前に来た時にはもう少し落ち着いていたような……」


「それはDSF――罪源職どもの活動が活発になっているからだ」


 背後から、鋭く研がれた刃のような声が掛かった。


「あ、シズさん! 達成報告は向こうの窓口でお願いします」


 受付嬢の視線を辿って振り向くと、そこには黒髪の女剣士が佇んでいた。黒く染められた倭の民族衣装を身に纏い、その肩にはボロボロに日焼けした薄桃色の生地が掛けられている。


「ああ、わかった」


 彼女はカウンターの向こう側へと行こうとしていたが、受付嬢の制止に従って、番号札を受け取って去っていく。


「……とにかく、大体一年くらい待っていただければ」

「一年!?」

「あら、すぐじゃない」


 長寿ジョークを飛ばすサーシャは置いておいて、俺は考える。一年もギルドなしであの村をやっていかなければならないとすると、色々と火種がくすぶり始めるはずだ。何とか早くできないか?


「……DSFだっけ? 罪源職の活動が云々って言ってたな」

「はい、まあ、そのせいですね、彼らの破壊工作で、私達はかなりの業務が増えていまして……」


 ということは、そいつらを何とかすれば、早く申請が通るか……?


 だとすれば話は早い。俺はさっき罪源職の話をしていた女剣士に、話を聞きに行くことにした。

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