閑話:第三の罪源7

「……」

「ハヴェル枢機卿、神託の儀の準備が整いました」

「ああ、わかりました」


 私は神官に答えを返すと、セラの手を取って歩き始める。今から向かう先では、イリスが初めての神託を受けることになっている。


 隔離させる期間も終え、私達は近隣の街にある教会へと身を寄せることにした。


 身寄りのない少女と、あの時以来まともに行動することができなくなったセラを介抱するにはその方法しかなく、その過程で私の身分も明かすことになってしまった。


「しかし驚きましたよ、行方知れずの枢機卿が聖都から離れた、アバル帝国の僻地にいるなんて」

「いろいろありましてね」


 神官の受け答えを適当に流しつつ、私は周囲を見渡す。


 見事とは言えないまでも、整った内装に、中庭やそこから覗く窓からは清潔な雰囲気が漂っている、近所で焼き討ちがあったことなど微塵も感じさせないほどだ。


「……」


 いや、もしかすると焼き討ちがあったことを本当に知らないのかもしれない。もし知られていれば、教会としては抗議せざるを得ないからだ。


「ぁ……」


 微かにセラが声を上げる。意味のある言葉を喋ったのは、あの時が最後だった気がする。私は歯ぎしりをして、少しだけ彼女の手を強く握った。


「こちらで神託を行います。枢機卿と……彼女もお受けになりますか?」

「あ、ああ……そうしましょうか」


 とはいえ、セラはこれが終わったら治療院へと入院させ、精神の修復に努めさせるつもりだった。神託を受けたところでどうするという話ではあるが、セラと別れる前に、彼女がどのような道をたどって、どのようなスキルを身に着けたのか、見ておきたかった。


 厳粛な雰囲気の中で一人一人に神託が与えられていくのを横目に、私はイリスの隣に腰掛けた。


「あ、お師匠様」


 声を上げかけたイリスに、人差し指を立てて静かにするように指図する。彼女は首を縦に振って、きちんと前を見て座りなおした。


 彼女が私を「お師匠様」と慕うのは、彼女も聖職者の道を選びたいと、申し出たからだ。私はイリスに心構えなど基礎的な事を教え、神託によって適性を判別してから回復属性の魔法を教えることにしていた。


「貴方は……魔法に適性がありますね、特に回復魔法と、支援魔法の適性が高い」


 視界の端でイリスが小さくこぶしを握る。よほどうれしかったようだ。次いで私が神託を受けて、代わり映えのしないスキルを聞き取ると、告知する神官がセラの前に立ち止まった。


「……貴女には、悲嘆者(グリーフ)の職業が与えられています」


 静かな聖堂で、その声だけがいやにはっきりと聞こえた。

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