閑話:第三の罪源6
「セラ!」
「ぁ……」
小柄とはいえ、人間一人を担いで逃げるには少々荷が勝ちすぎている。助けを求めてセラに声を掛けるが、彼女の反応は鈍かった。
「せめてこの子だけでも助ける! この場を離れよう!」
彼女を叱咤して、村を離れる。両手が塞がっている状況で、彼女まで放心したままなら、状況はさらに悪くなっていた。
加えて、私が殴殺してしまった兵士は単独行動していたのか、死体が発見されて追手が来るような事もなかった。それも幸運といえば幸運だろう。
「耐えてくれ……!」
十分に村から距離を取った後、回復魔法で傷口を癒しつつ、刺さった剣をゆっくりと引き抜く、肉が引っ付く感触が気味の悪い生々しさを伝えてきて、私は思わず顔をしかめた。
腱を引き抜くと同時に、傷口が塞がる。出血は最小限に留めた筈だが、少女の表情はまだ土気色をしており、体内の血液が足りていないことを示している。
私はさらに身体の代謝を増進させて造血を促す魔法を使い。彼女の治療をしていく。
「頼む……目を開けてくれ……」
徐々に血色を取り戻し、脈拍が安定してくる。とはいえ血を失い過ぎて後遺症が残ることも考えられた。
「……」
祈りが通じたのか、少女はゆっくりと目を開けて、私をしっかりと見上げた。
――
少女の容態が安定したとはいえ、少女は伝染病の流行地で生活をしていた。そういう意味では、近くの集落に身を寄せるわけにもいかなかった。彼女が観戦していないとも言い切れないからだ。
とはいえかなり体力が落ちている状況で、何週間も野営させるわけには行かず、私はその折衷案として、七日ほど集落に近づかないよう注意を払うことにした。
旅をする行商人から食料や衣類を買い、落ち葉や枯草を敷き詰めて穴倉で生活をする。体力の回復しきれていない少女や、あの時からずっと呆けたように動かないセラに代わって、私は精一杯動いている。
長い巡礼の間、セラから教わったことをフルに生かして、命をつないでいく。私はその中で、持続回復を利用して一〇〇%以上の力を出す技術を身に着けた。
「お師匠さま、ありがとうございます」
「構わない。私が居ない間、セラの世話を頼んだよ」
少女の名前はイリスといった。
幸か不幸か、焼き討ちにあった時の記憶は混濁しており、私は「開拓者が村を襲い、君だけは助けることができた」と伝えておいた。その方が他人への恐怖心を抱かずに済むだろうし、魔物の襲撃であればある種の諦めも出来るだろうと思っての事だった。
今日で七日目、ようやく明日の朝には集落を目指して移動ができる。イリスも伝染病を発症することなく、健康そのものだった。
私は持続治癒を身体にかけて数メートル飛び上がり、鳥の巣から卵を拝借した。
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