閑話:第三の罪源5

 伝染病の抜本的な解決として、流行地域を焼き討ちにするという方法がある。


 だがそれは本当に最終的な手段であり、なおかつ人道的にも問題があるとして、教会も否定的な立場を取っている。


「早く燃やせ! 誰一人逃がすな!」


 だが、教会の権威が届かない、もしくは強権的な指導者のいる地域では、当然のように選択肢の一つとなっていた。


「これは……っ!?」


 私が言葉を失っているとすぐ隣に居たセラが崩れ落ちる。


「間に合わなかった……わたしが、向かえなかったせいで……」


 その表情からは生気が抜け、うわ言をぶつぶつと繰り返すのみだ。


「セラ! しっかりするんだ!」


 体を揺するが、彼女の反応は薄い。


「くそっ、何か……何かできないか……?」


 私は改めて村の状況を確認する。


 焼け落ちる家屋に、赤黒くぬめり光る剣を持った兵士たち、村民を皆殺しにしたうえで、家に火をかけて回っているようだ。


 飛び込むのは不味い。いくら非人道的な事をしているとはいえ、相手は装備から見ても正規軍だ。それに、不用意に立ち入っても、ただ助ければいいというわけでもない。伝染病の保菌者である可能性が否定できないからだ。


「待て、ガキが!」


 その言葉が聞こえて、私は思考を中断する。村を見ると、一つの家屋から幼い少女が駆けだしてきたのだ。


 小さな体で、息を切らせつつも、逃げるために村の外――こちらへと走ってくる。


「っ……!!」


 意を決して、その少女が村から逃げ出せばすぐに保護できるよう、立ち上がる。少女は私の姿に気付かないまま、しかしまっすぐとこちらへ向かってくる。


 だが、その背後から追いかけてくる黒い影があった。


「はぁ、はぁっ……あぐっ!!」


 兵士の突き出した剣は腹部を貫き、地面に縫い付けるように押し倒した。


 地面に赤く黒い染みが広がり、それが徐々に背後にある炎を反射する。


「全く、苦労させやが――」


 その時、私は完全に自我を失っていた。


 地面を蹴り、のしかかった兵士に突進して、彼を押し倒す。


「な、何だお前はっ!? ぐっ!? がぁっ!」


 力任せに兜を剥ぎ取り、それを使って何度も頭部を殴打する。彼は防御しようと籠手を掲げるが、軽い金属音を立てる位しか抵抗は出来なかった。


「や、やめ……」


 私が冷静さを取り戻したのは、男が動かなくなった後、べちゃりという不快な感触が手に持った兜越しに伝わってきた時だった。


「……っ、そうだ、あの子は!?」


 兜を放り投げ、剣をつき立てられた少女へ視線を移す。剣が刺さったままなので、出血はある程度で収まったようだったが、今まさに命が尽きようとしていた。


「くっ……」


 周囲に兵士の姿がない事を確認して私は剣が刺さったままの少女に回復魔法を掛けつつ、彼女を担いでセラの場所まで戻った。

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