第45話 見つけてやるんだから
「ぐぬぬ、あの時弓兵をもう一騎確保できていれば……」
「まだタクティードやってんのか」
日が昇り始めてから、俺たちは早々に出発することにしていた。
この調子で行けば、昼前には補給に寄る予定の村に到着し、そこで二泊程度は滞在できるはずだ。
「そりゃもう! アタシは勝てるまでやるっすよ!」
いや、お前はもうちょっと冷静さを持たないとどうしようもない気が……
アンジェは俺の周囲でぴょんぴょん跳ねながら、いかに惜しいところで負けたかを力説している。多分その爺さん、あんまりにも張り合いが無いから「いかにしてギリギリ勝つか」みたいなチャレンジを始めている気がする。
「ガハハハッ……アンジェちゃんは今日も元気じゃな!」
噂をすればなんとやら、件の爺さんが声を掛けてきた。
「あっ、出たっすねボドゲマスター!」
アンジェが威勢よく指差したのをたしなめつつ、俺は軽く会釈をしてから話を切り出した。
「アンジェが世話になっている」
「なに、ただの暇つぶしよ……と言っても、いささか歯ごたえ無くて食傷気味じゃがな」
そう言って爺さんは笑う。
「そうじゃお主、タクティードのルールは知っておるか?」
「まあ、教養程度には」
コスタの前領主が時々やっているのを見て、その時教わった程度だ。エレンやユナとも一時期狂ったように遊んだことがある。
「そのくらいで構わん、今夜一局どうじゃ?」
「考えておこう」
アンジェのお守をしているようなものだ。だとすれば、そのくらいの恩返しはするべきだろう。
「何か楽しい話をしているようね?」
俺の外套に隠れて、爺さんを威嚇をするアンジェに困っていると、また声が掛かった。
「おお聖女様、ご機嫌いかがでしょう」
「そのわざとらしい反応でちょっと機嫌が悪くなったわ」
爺さんが芝居がかった調子で言うと、イリスも負けじとわざとらしく腕を組んで見せた。どうやら二人の間では普通のあいさつらしい。
「イリちゃんおはよっす! 昨日は楽しかったっすね!」
「ええ、おはよう。そうね、とっても楽しかった」
なんだかんだ、昨日無理やり連れだしたのは正解だったな。と思った。
アンジェや俺としか話していなかったイリスは、教皇庁まで三分の一を切った段階でようやく、周囲の人間と馴染み始めたようだ。
「……」
「……? どうした?」
それを微笑ましく思っていると、不意に彼女と目が合った。挑戦的な視線で、何か言いたいことがあるようだった。
「わたし、教皇庁に着くまでには見つけてやるんだから」
何を? とは聞かなくても十分わかった。昨日の話を知らないアンジェと爺さんはきょとんとしていたが、俺はあえて深くは探らない。
「そうか」
短くそう答えるだけで、イリスには十分だった。
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