第25話 危機意識

 翌朝、朝日が昇った後から行動を開始して、隊列にまで戻ると、ちょうど捜索隊が組まれているところだった。


「あっ、聖女様が戻られたぞ! よくぞご無事で! お怪我はありませんか?」

「必死に探したのですが見つからず。今日は人数を増やして捜索する手筈になっていました」

「聖女様の無事を我々一同ずっと祈っておりました」


 白々しいな。


 俺は駆け寄った三人が、全員すこぶる元気そうなのを見て、溜息が出た。さすがにもうちょっとそれらしく見せろよ。


 そもそも俺たちが戻ったのは朝日が昇ってから時間が経っている。本気で探す気なら入れ違いになってもおかしくないくらいの時間だ。


 おまけに、捜索隊の人数も少なすぎる。精々十人を超えるかどうかというくらいで、他の何十人といる騎士や護衛は結界の内側で来るはずもない敵を警戒していた。


「……ありがとう。ところで、アンジェ――いえ、混血の子は何処に居ますか?」

「えっ!? あ、あの……穢れ血の娘は、そのぅ……」


 言い淀んだのを見て、俺はある事を察した。


「聖女様、魔物除けの結界、アラートは付いていますか?」


 大勢の手前、恭しい態度で頭を下げて問いかけると、イリスは周囲を見渡して、俺と同じ結論に至った。


「アラートは有効になっている。という事は――」


 そう、こいつらは罪源職を食い止めた俺とアンジェ、そして隊列の核であるイリスを置いて、安全地帯でぬくぬくと一夜を明かしたのだ。


「も、申し訳ありません!」

「……誰の指示ですか?」


 イリスは今すぐにでも怒鳴りつけたい気持ちを、何とか抑え込んでいるようだった。


「そ、その――モーガン兵士長です!」


 多分、これも嘘だろう。一人の命令なら、少しはモラルのある奴が反抗して、隊列が割れるかモーガンの強権が発動しているだろう。現状を見るに、満場一致に近い意見のはずだ。


「せ、聖女様! ご無事でしたか!!」


 モーガンが人垣を掻き分けて、慌てた様子で走ってくる。寝癖がついていて、顔が赤い。鼻を利かせてみると、仄かに酒の匂いがする。どうやら昨日は酒盛りをして寝たらしい。


「……」


 イリスはそのまま黙り込んでしまう。もちろん隣にいた俺もそうしていた。こいつらは危機感がないどころか、常識がない。


 確かに、ルクサスブルグからここまでの間で、夜間の酒盛りはそれなりにあった。だが、今は魔物の襲撃直後で、しかも聖女が居ないという異常事態だ。保身が過剰に働いてアンジェを追い出したのはまだしも、酒を飲んでひっくり返るなんていうのは、論外だ。


「貴方達――」

「おはよーっす!!」


 イリスの堪忍袋の緒がブチ切れそうになった時、異様に能天気な声が背後から聞こえてきた。


「あらあら、みんな集まってるじゃない」

「モーガン兵士長、おはようございます」

「あ、ニル兄! イリちゃんと帰ってこれたんだね!」


 五人ほどの人影がぞろぞろと現れて、その直後魔物がアラートに掛かった音が鳴り響いた。これはもちろん魔物が襲ってきたのではなく、アンジェがアラートに引っ掛かったせいだ。


「……マジでアラートを有効にしてやがったな、こいつら」


 俺は誰にも聞こえないように、呆れ半分苛立ち半分の愚痴をこぼした。

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