第19話 隊列防衛戦2
「おいっ! 何だあの……」
「わからん、だが……」
「……戦鎚(バトルハンマー)?」
その場にいる全員が戦慄し狂力熊でさえ慄く、黒く天をつく物体。確かにその先端は幅広で、戦鎚といえなくもない。
だが、それは戦鎚と呼ぶには大きすぎる。
ひたすら巨大で、見るからに重量があり、不格好だ。
その場にいる全員の注目を集めた「それ」は、遠目にはゆっくりと倒れたように見えた。
「ぐああああっ!!!」
しかし、次の瞬間巻き起こる悲鳴に、倒れたわけではないことがわかる――攻撃したのだ。
再び黒い物体が見える。今度は俺の方にいくらか近づいて、それは斜めに立っていた。
「ヤバいっ! 全員退避しろっ!!!」
「し、しかし馬車が――」
遠くでそんな怒号が聞こえたが、それらは全て黒い物体が薙ぎ払ってしまう。
「ニル兄っ!!」
「――っと、悪い。圧倒されてた」
耳元で叫ばれ、俺は我に返る。振り抜かれたのか、黒い物体は先程とは逆方向に傾いていた。
「馬車を置いて逃げろっ! 無理だ、あんなバケモノ相手にはできん!」
「お、俺が先だっ! 死んでたまるか!」
「ふ、ふざけるな! 私は枢機卿になる男だぞっ! またんかっ!!」
怒号は恐慌となり、狂力熊相手に防衛していた騎士たちは散り散りに後方へと駆けていく。
そんな中、俺はアンジェと共に前方へと駆ける。
馬はこの混乱にあてられて、まともに走ってはくれないだろう。だからこそ、俺たちは人の流れに逆らって進んでいく。
「ぐぎぎっ、進みにくいっすな……」
「そう言うな――空圧弾っ!」
魔力収束炉をかざし、再び攻撃を加えようとするそれに空気の弾丸を当てる。初級の魔法だが、良質な触媒を使っているのでそれなりの威力は出るだろう。
空気弾は命中し、黒い物体は少しふらついて攻撃が遅れる。それでどうなるとも思えないが、少しでも負傷者が減ることを祈った。
再び黒い物体が周囲を薙ぎ払う。
悲痛な声と、周囲に生えた低木すらへし折る威力に、足がすくみかける。しかし、俺はそれでも前へ進む、この隊列には聖女がいて、あの不気味で無機質な狂気は彼女がいる馬車に近づきつつあったのだ。
「どいてくれっ! ――っ!!」
「ニル兄――」
俺とアンジェ、二人ともが同時に声を失った。
黒い物体の根元に居るのは、魔物などではなく、人間だった。
瘦せた身体をボロのようなローブに包み、顔を純白の仮面で隠した男が、片腕で身長の数倍はあろうかという大質量の物体を持っていた。
ローブの隙間から伸びる手には、防具などはつけられておらず、代わりにどす黒く、奇妙で不快感を覚えるような痣が浮かんでいた。
「罪源職……!」
烙印持ちの罪源職、強力無比な力を持つ、人類の敵。
俺は想像しうる最悪の遭遇に、息を飲んだ。
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