第14話 穢れ血の少女5

「ぜえ、ぜえ、何で、こんなことに……」

「はぁ、はぁ……んぐっ……ぷはっ、そりゃあ、お前、準備もなしで行ったら……」

「こうなるわよねえ……」


 カインは血まみれの剣を片手に、肩で息をしながら。

 俺はアンジェの母親を担いで霊薬をがぶ飲みしながら。

 サーシャはアンジェを小脇に抱えて周囲を警戒しながら。


 各々は各々ができる事をしながら逃げ回っていた。


 カインの判断は、母親を助けるという目的においては最善の選択だった。


 彼らは脱走したアンジェと、彼女を手引きした母親の処刑を、今日中には行うつもりだった。見せしめもあるだろう。俺たちが突入した時には、強制労働をさせられている混血達の前で、母親にメイスが振り下ろされる寸前だった。


 サーシャが照明を射貫き、カインが立ちふさがるごろつきを倒し、俺が魔法による閃光で目をくらませて、全力で逃げてきたのが今である。


「うっわ……鎧着てる奴までいるぞ」

「だから言ったろ、背後にでかいのが居るって……」


 母親は意識がなく、アンジェもこの雰囲気に押されて黙っている。騒がしくないのはありがたいが、ここから全員安全に逃げるには無理そうだった。


「どうする? 俺達じゃどう考えても無事に済まないぞ」

「せめて二人も抱えてる状況じゃなきゃね……」


 サーシャは弓を使えず、俺は杖を使えない。戦闘で役に立たないうえ行動に制限が付く俺達では、この状況を打開できない。


「……よし、ニールは走るくらいは出来るな? サーシャも」

「いや、まあそりゃあ――ってお前、もしかして」


 止める暇はなかった。


「んじゃ、行ってくるわ」


 そう言い残して、カインは俺たちを探しているであろうごろつきに突撃していく。


「居たぞ! こっち――ぎゃああっ!!」

「オラオラァ! 道を開けろっ!!」


「ば、馬鹿なのか!? この人数相手に突っ込んでくるなんて! ……うぎゃあああっ!?」

「おい! 人を集めろ! とりあえずこいつを何とかするぞ! ぐああああっ!!!」


 マジでやりやがった。俺とサーシャは顔を見合わせてため息をつく。


 ちなみにこれは


「俺が囮になるからお前らは逃げろ」


 という意図なのは確かなのだが、あいつの場合、その後に


「――つって単身突撃するとかかっこよくね?」


 とつづくので、純粋に後先を考えていない馬鹿の行動である。


「……逃げるか」

「ええ……」


「あ、あの、さっきの人は……」


 遠慮がちにアンジェが聞いてくる。


「ああ見えて悪運だけは強いから、明日には帰ってくるさ」

「カインはちょっとやそっとじゃ死なないから大丈夫よ」


 俺たちは二人そろって似た反応を返した。

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