第12話 穢れ血の少女3

 拾ってきた奴が面倒を見ろ。ということで、俺は拾ってきた混血の子がいる部屋にいた。


「ん……」

「お、ようやく起きたか」


 彼女が目覚めたのは、結局夕飯を食べ終わり、もうそろそろ今日は諦めて寝るかという時だった。


「あー……俺はニール、んで、なんというか、君の名前は?」


 起き抜けで明らかにぼんやりしている彼女に問いかける。


 彼女は質問の意味が分からないように鈍い反応だったが、もう一度声を掛けると、ぼんやりとしたまま唇をわずかに動かした。


「アンジェ……」


 傷は治してあるし、毒素や風邪関係も魔法である程度は取り除けているはずだ。という事は、意識がはっきりしないのは、起き抜けである事と、空腹による物だろう。


「身体は起こせるか? ちょっと冷めてるがスープならある」


 そう言って俺はベッド脇に置かれた小さな器を指差す。それには屑肉と野菜を塩で煮込んだスープが入っていた。


「……」


 アンジェは身体を横たえたまま、首を横にふる。どうやら起き上がる元気も無いようなので、俺は仕方なく背中に手をまわして、自分の身体で彼女を支えるようにする。


 両腕が空いたところでスープを取り、スプーンですくって口元まで運んでやる。


「毒なんて入ってないから安心しろ。事情はまあ、気になるがいきなり話せとは言わない」


 アンジェが食べるのを躊躇しているので、俺は安心させるように声を掛けてやる。


「……」


 その言葉が効いたかどうか分からないが、彼女はスプーンを口に含んだ。


「よし、まずは食って話せる体力をつけよう」


 最初の一口が呼び水となったのか、彼女の咀嚼するペースはだんだん早くなり、ついには自分でスプーンをもって食べ始めた。


「……ごちそうさま」

「いい食いっぷりだったな」


 基本的に、腹が満たされると生き物はおちつく。それはどこでも同じだ。


「ありがとうございました」


 遠慮がちに視線を向けて、アンジェは礼を言う。


「まあ、あの状態で放っておくのは何かと後味が悪いからな……事情は聞かないから。体力が回復するまでは居たらいい」


 なんとか助けることはできたが、これ以上首を突っ込むのはヤバい。俺の直感がそう告げていたし、彼女も無理に事情を聞かれるのは嫌だろう。


 俺は彼女をまたベッドに寝かせて、食器を片付ける。


「あの」


 部屋を出ていこうとした時、アンジェから声を掛けられた。


「どうした?」


 トイレか、喉が渇いたか、そのどちらかだと思って、俺は気軽に反応した。


「おかあさんを、助けてください」


 想像以上に重いおねがいだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る