第11話 穢れ血の少女2
「で、珍しいよな、お前がこういうあからさまな厄ネタ持ってくるの」
サーシャが部屋から出て行ったあと、カインは俺ににやにやとした顔を向けてきた。
「なんだよ、一目惚れか?」
「そんなわけないだろ。ただ、目に入って、助けられたから助けただけだ」
彼の視線から逃げるように目を逸らして、俺はそれだけ言った。
「へー、ふーん、ほー」
「何だよ」
わざとらしい声に、俺はちょっとだけイラっと来た。
「いーやべつに? でも、リスクとリターンを常に考えろっていうお前がなぁ」
「っ……こ、こういう事態に対応する余力を残すためだよ」
カインは常にリターンのみに目を向けているが、俺は違う。うん、違うのだ。
「というより、俺じゃなくてカインが見掛けても同じことしてただろ」
「まあ、そりゃあそうだな」
大体こいつは、厄介事があれば率先して首を突っ込むタイプだ。俺が常にリスクだのリターンだのコストだのを言っているのは、八割くらいがこいつのせいだ。
「で、拾ったのはスラムの近くだっけ?」
「ああ、一人で倒れているところを見つけただけだから、何が起きたかは聞かないと分からないが……」
入り口とは別のドアを見る。その先にはサーシャと助けた彼女が居るはずだった。
「ま、なんにせよ、なるようにしかならねえだろ、今までもそうだし、これからもそうだろ?」
そう言ってカインは笑う。その「なるようにしかならない」を必死こいて何とかしてきたのだが、反論する気はもう無かった。
「とりあえずは大丈夫ね、自分で再生薬も飲めたし、今は回復体位をとらせて寝かせるだけでいいでしょ」
サーシャが部屋に戻ってくると、俺はホッと胸をなでおろした。わざわざ怪しいものを拾ったんだ。それが徒労だったりしたら目も当てられない。
「あと、あんなになってた原因、大体だけど分かったわ」
「お、マジ? どんなヤバい事?」
カインが身を乗り出して興味を示す。俺もそれは気になっていたので、視線で何があるのか聞いてみる。
「頭に小さい角が生えてたわ、混血ね」
「えぇー……」
カインが露骨に嫌そうな声を上げた。大方「犯罪組織に追われた貴族の令嬢」とかそういうのを期待していたと見える。
「そうか……」
だが、俺としてはむしろ安心するべきことだった。
いやな話だが、この街はオース皇国領で、混血を穢れ血と呼んで忌み嫌う文化が根付いていた。
だから、彼女があそこまで傷つけられるのも、スラム街では日常茶飯事だ。
「まあ、とりあえず、詳しい話はメシの後にすっか、スープくらいなら拾ったガキも食えるだろ」
露骨に態度が適当になったカインの提案に、俺たちは従う事にした。
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