第59話 魔眼:サリエル6
「ギギギッ」
開拓者は不機嫌そうに歯ぎしりすると眼帯――遺物に手をかざす。
すると遺物は淡く発光し、その光は開拓者の身体へと吸い込まれていった。
「竜炎っ!」
何か不穏な空気を察し、俺は魔力収束炉から炎を迸らせる。
炎は一瞬で開拓者を焼き尽くすかに見えたが、当たる瞬間に奇妙なことが起きた。その炎が開拓者を避けるように二股に別れると、あらぬ方向へ飛んで行ってしまったのだ。
「ギヒッ」
遺物は、当然ながら欠損した部位の代替として使える以上の効果を持っている。
例を挙げれば、イクス王国の国宝でもある脚の遺物「燕踏靴(レッドラビット)」は、人間離れした脚力をもたらしてくれる上に、空中を「踏む」ことができるらしい。
そう考えれば、魔眼はある範囲内を見通せる力と、強力な魔法障壁を持っているのかもしれない。
「ギギャギャッ!!」
しかし、俺の推論は外れていた。
開拓者の周囲にある小石が、それの合図ひとつで浮かび上がり、矢のような速度でこちらへ殺到する。
「っ!!」
俺はとっさに左手を握って魔力盾を展開する。石のつぶてがあられのように当たって、割れるたびに再生成を行って何とかしのぐ。
「念力(サイコキネシス)……か」
魔法に高い耐性を持つ盾を破壊されたことで、俺は相手の能力をしっかりと把握する。
――念力
この世界には、魔力以外の力がいくつか存在する。磁力や引力などがそうだ。念力はそのうちの一つで、魔法の素養がなくとも、念力の修行によって離れたものを動かすことができる。
ただし、この力は長年の修行により体得できる物で、開拓者ごときが一朝一夕で扱える力ではなかった。
おそらくは魔眼の能力による物なのだろう。俺はそう判断して、改めて魔力収束炉を構えた。
「……」
お互いの沈黙、決闘のようなひりついた空気を感じる。先に動くのはどちらか……
「ギギッ!!」
開拓者が腕を振り、再びつぶてが俺めがけて飛んでくる。俺はそれらを魔力盾で最低限防いで突進する。
氷でできた魔力盾を割られるたびに再生成し、射程距離まで近づくと、俺は魔法を発動させる。
「氷刃っ!!」
構えた盾の前方に、氷でできた刃が瞬時に伸びる。それは開拓者の首へ狙いを定めていて、必殺の一撃になるはずだった。
「ギヘヘッ、ギヒヒヒッ!」
しかし、ギリギリで届かない。いや、念力で届かないようにさせられてしまう。現状では完全に手詰まり――
「グギッ!?」
そう思いかけた瞬間、開拓者の肩に矢が一本刺さった。
エルフ特有の薄い矢羽……その作り方に、俺は見覚えがあった。
「サーシャ!」
「ピンチに参上……って、この流れ前もやったのよねえ」
跳んできた方向を見ると、弓を構えたサーシャがこちらに手を振っていた。
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