第54話 魔眼:サリエル1
「――ざざす、ざざす、なさたなだ、ざざす」
モニカの詠唱が始まる。今回、偵察部隊とかち合う事を危惧して、モニカも前線へ同行することになっている。
とりあえずの危険は去ったが、アンジェも感じ取っている通り、既に包囲の輪は小さくなり始めていた。相手に気取られるよりも早く、先制攻撃を行う必要がある。
状況が変わり、編成も変わる。
モニカの魔法が発動した時点で、俺が加速を使い、内部で撹乱を行う。その間にアンジェが囮となり、サーシャがアンジェを補助しつつ遊撃、モニカとガロア神父はアンジェに同行し、攻撃から庇われやすいように位置をとる。
「きたれ、なるかみ――拡散操電」
コンセントレーションの乗り切った球電が、周囲の魔物を駆逐し、それと同時に俺は加速を発動させ、地面を蹴る。
一歩、村の入り口まで跳ぶと、見張りの小鬼二体をナイフで絶命させる。
二歩、門の開閉を行う装置を見つけ左手で殴りつける。
三歩、開閉が不可能になったのを確認し、街の中心部、教会へと向かう。
残る四歩目で教会の中へと入り、周囲を見回す。無いとは思うが、一応遺物の有無を見ておきたかったのと、籠城するなら建物の作りがしっかりとしていて、村の中心部にあるここが、何かと都合がよかった。
「竜炎っ!」
中に入ると同時に、くつろいでいた小鬼と豚鬼に向けて火属性の魔法を打ち込む。
「グギャアアッ!!」
身体を炎に包まれて苦しむ小鬼を、左手で殴りつけて倒すと、俺はその手を開いて別方向で戦闘態勢をとる豚鬼へ狙いを定める。
「竜炎っ!」
クールタイムは終わっている。呪象の牙で作り上げられた魔力収束炉は、カインに売り払われた物よりも、格段に性能が高い。半年前とは何もかもが違うのだ。
「ブギイイッ!?」
豚鬼はもがき、倒れこんで火を消そうともがいている。その一方で入り口から逃げ出そうとする豚鬼の姿があった。
「神雷っ!!」
「ブギョアッ!?」
まさに神速とも言うべき速さと、高威力の電撃が豚鬼の背中に刺さり、体中を黒焦げにして倒れる。
三連続で魔法を使ったが、ディレイやクールタイムの負担は一切感じない。試運転のときにも思ったが、この魔力収束炉は本当に作ってよかった。
外から大声が聞こえてくる。アンジェの雄叫びによって、宣戦布告が行われたようだ。
雄叫びのおかげで、俺は少しだけ落ち着いて教会内を見ることができた。
確かに周囲は荒らされ、いくつかの調度品は壊れている。そしてやはりというか、当然というか、ガロア神父から教えてもらった箇所の仕掛けは解除されており、遺物があった痕跡のみが残っている。
「仕方ない……か」
これで、遺物が魔物の手に堕ちていないという希望が、完全になくなった。あとはもう、死力を尽くして魔物を討伐するだけだ。
俺は魔力収束炉に籠った熱を放出すると、村の内部から魔物を討伐することにした。
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