第50話 遺物と不穏な影

――遺物

 世界創世の折、神の破片として散らばった十二の欠片。それが遺物である。

 彼らにとっても重要なものらしく、現在三個が魔物の勢力圏、四個が人類の勢力圏、五個が行方不明となっている。


「遺物? そんなもの、中央教会が管理しているんじゃ――」


 言いかけた俺を、ガロア神父は指を立てるだけで制した。


「……見つけていたんだよ、行方不明の五そく中央教会に報告し、回収してもらおうと考えた。

 だが、使いを出す前に開拓者の襲撃を受け、それどころではなくなってしまう。俺によって一時的に解放されたが、疑心暗鬼になっていた彼は、教会の奥深く、誰も見つけられない場所に封印し、中央教会の到着を待つことにする。

 しかし、更にそれも上手くいかない。開拓者の再襲撃があったこと、更には不慣れな土地での生活、誰も信用できない状況で、中央教会へ連絡をとれなかったらしい。


「――そんな中で、お前が村のために戦い、目を負傷した。私はそれをある種の啓示だと判断したのだ」

「それは……」


 不思議な偶然もあるものだ。とは言えなかった。なぜなら、遺物は持ち主を選び、そのためには運命……因果すら捻じ曲げる力を持つのだ。


「……」


 全員が黙りこみ、無言で道を歩く。歩いている途中、荷馬車が通りかかり、経路が一致していたので、途中まで載せてもらうことにした。


「だが、半年以上たっている。魔物の手には落ちていないだろうか」


 その場合、遺物持ちの開拓者と戦う可能性がある。その場合、このメンバーで、ガロア神父を戦力に数えたとしても、苦しい戦いになりそうだった。


「私が全力で隠蔽魔法を使ったのだ。半世紀は見つからない自信がある」


 ……不安ではあるが、信じるしかないか。


「それにしても、メイちゃんたちの故郷ねえ……アバル帝国だっけ?」


 サーシャが話題転換とばかりに話をする。


「ちょっとキナ臭いわよね、行商人から聞いたけど、武器の値段が高騰してるって」


 アバル帝国は、エルキ共和国よりも魔物の危険度が低く、文化的に成熟している国だ。わざわざそんな国で武器の値段が上がるという事は、近々戦争か、スラム街の大粛清か、いずれにせよ血生臭い事が起きる前兆という事だ。


「うええ、あんまり行きたくないっす……」

「まあまあ、俺たちはアバル帝国の端っこに行くだけだ。戦争も粛清もそこまで関係ないさ」


 俺はそう言って、なんとかその場を収めた。

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