第五章

第49話 いざはじまりの村へ

 三日後の朝、遠征の準備を終えた俺は、最後の仕上げに魔力収束炉に地属性の触媒カートリッジをセットして、外殻を閉じた。


 ちなみにカートリッジの中身は、土巨人の核だ。他の二つと比べればかなり格が落ちるものの、一般的に出回っている素材だ。


「……よし」


 試運転後にカウンターウェイト(※左右で重さのバランスを保ち、疲労を軽減させる目的の重り)として付けた右手のブレスレットも、上手く体に馴染んでいる。


「ニル兄ー、準備できましたー?」

「ああ、大丈夫だ」


 旅に必要な荷物は、全て麻袋に詰めてある。俺はそれを担いで、魔力収束炉をひっかけるようにして一緒にすると、アンジェに向き直った。さすがに大層な籠手を嵌めたまま生活するのは、何かと不便すぎる。


「あれ、荷物少なっ! ……あっ、カインの荷物が無いから!」

「そうそう、あいつ用のタオルとかメンテナンス道具が無いから、半分くらいで済んだわ」


 前のパーティでは、かなりの雑用をやらされていたし、カインの荷物を半分以上俺が持っていた。なんでそうなったかは全く覚えていないが、とにかく荷物持ちをやっていたのだ。


 アンジェと一緒に家を出ると、雲に陰った朝日が柔らかく降り注いでいた。サーシャとモニカは既に準備を終えているようで、各々が荷物を担いでいた。


「向かうのはこの四人だったな」

「ああ、あまり大人数で移動するわけにもいかない。どれだけ増やしても五人までだろう」


 ガロア神父も旅装に身を包み、少し緊張した面持ちで立っていた。開拓者に警戒されず、あの村まで戻るにはこの人数が限界だ。


 全員が合流すると、村から出発する。行先は遠いものの、馬や乗り物を用意するのは危険だ。道中では邪魔になるときもあるし、行きで使った道は、大人数で馬車や隊列を組んで通行する為のルートだ。ということは、最短ではないのだ。


 この人数であれば森の獣道を縫うように歩いたり、渡河も少しは無理ができる。時間で言えば半分以下に短縮できる筈だった。


「ところでガロア神父、なにをしに行くか教えてくれないか? 職業上教えることはできないとは聞いているが、教えてもらわないと俺達も動きが制限される」


 ある程度村から離れたところで、俺はガロア神父に問いかける。元はと言えば、彼が提案してきたのだ。そろそろ何をするのか教えてくれてもいいだろう。


「あ、それアタシも気になる! 開拓者に占拠されて時間の経った村に戻ってまで、何を探すの?」


 アンジェは俺に同調するようにして神父の顔を覗き込む。


「ふむ、そうだな……まあ、教えても良いだろう。取りに行くのは遺物(レリック)だ」

 

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