第33話 第五の罪源5

「役立たずが揃いに揃いやがって……まあいいや、八咫烏! いつまで寝てんだ。あいつらを焼き払え!」


 カインがそう叫ぶと、八咫烏は再び燃え上がり、元の姿へと戻る。この再生能力をどうにかしなければ、俺たちに勝ち目はなさそうだった。


「ニール、加速のクールタイムは終わってるかしら?」

「クゲエエエェェッ!?」


 作戦を練るべく身構えるが、行動を起こす前に、サーシャの矢が魔物の脳天をつらぬいて、それを戦闘不能にさせた。


「……いや、まだだ」


 彼女の腕前をありがたく思いつつ、俺は答える。


「久しぶりにアレを撃ちましょう? それでとどめは……モニカで良いかしら?」


 そう言って、サーシャは片目を閉じて俺に合図を送る。


「……ああ」


 つまり、俺がパーティから抜ける前の戦い方をしようというわけだ。モニカを見ると、魔法発動の為に集中を始めていた。


「させるかよっ!」


 カインは八咫烏に指示を送り、頭部が破壊されたというのに、魔物は無数の火球をこちらへ飛ばしてくる。


 高速で向かってくる火球を前に、俺たちは反応が間に合わない。しかし――


「カインってばさあ、アタシのこと忘れてたでしょ?」


 盾を担いだ小柄な影が、俺たちを火球から守る。アンジェの騎士スキルはここぞという時に有用だった。


「アンジェ、サーシャ……時間稼ぎを頼む。クールタイムが終わればすぐに使う」


 俺はそれだけ言って、雪の積もった地面に膝を立て、クールタイムが少しでも早く終わるよう集中状態に入った。


 両眼を閉じ、周囲の音からも切り離されていく。今はおぼろげに盾ではじく音と、矢が肉を穿つ音のみが聞こえてきていた。


「ニール」


 不意に、俺の肩に柔らかな手が置かれたのを察する。その声はユナの物だった。


「良い仲間を持ったわね……貴方の旅は、無駄じゃなかったっていう事かしら?」


 返事を返すことはしなかったが、ユナも俺の答えは知っているはずだった。


「きっと貴方が経験してきたことは、つらい思い出ばかりではないのでしょうね」


 ユナの言葉を聞きながら、クールタイムが終わったのを感じた。


「ああ、また今度話すよ……加速っ!!」


 サーシャに聞こえるようになるべく大きな声で叫ぶ。


「ありがとっ……くらえっ」


 支援を受け取ったサーシャは姿勢を低く、弓を引き絞った。


 元々、彼女は連射力が高く、通常状態でも八咫烏を蜂の巣にする技量はあった。

 そして加速の効果はLv歩数分の間、対象を超加速する。


 もしサーシャの連射力がさらに強化されたら?

 もし一歩も動かずに攻撃する方法のある相手に加速を使ったら?


 その結果は、目の前にあった。


 弓から放たれた無数の矢は全て八咫烏へと命中し、それの形を削り取るように崩していく。矢筒の中にある弓を全て打ち尽くすまでそれは止まらず。八咫烏は本当に、跡形もなく消滅してしまった。


「っ……!!」


 カインの顔には焦りが生まれるが、八咫烏がここから再生しないとも限らない。だからこそ俺たちはさらに強力な攻撃を準備していた。


「きたれ、うすらい――氷姫嬉戲(ノーブルフリーズ)」


 モニカの魔法が発動し、大気そのものを凍らせるような、強力無比な冷気が辺りを襲った。

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