第32話 第五の罪源4
「ははっ、良いぜ、テメェは昔から透かした態度がムカついてたんだよぉっ!!」
片手剣を抜き放ち、カインは構えを取る。俺はそれを確認すると同時に、加速の支援魔法が発動したのを感じた。
一歩、カインの死角へ位置取りナイフを突き出す。
二歩、相手に手の内は読まれている。難なく躱され空ぶった姿勢のまま、脇腹へ蹴りを入れる。
三歩、姿勢を直し、再びナイフを構えて突きこむ。
「っ!?」
カインに俺の手の内、つまり戦闘の癖はバレている。彼は蹴られた脇腹をかばうことなく、俺のいる方向へ片手剣を向けている。
速い動きではなかった。カインの持つ、超人的な戦闘センスのなせる業だった。一方の俺はと言うと、想定外の位置にあった刃を避けようとして、三歩目を足を地面に着けてしまっていた。
「ぐっ――!」
顔の左半分に、焼けつくような痛みが走り、左半分の視界が消失する。視界を奪われた恐怖で動きを止めそうになるが、俺は動きを止めなかった。
そう、カインは知らない。俺の支援マスタリーが、Lv4になっていることを。
四歩目、伸ばされた彼の腕へナイフを走らせ、手首の関節で切断、そして、雪の上を転がるようにして距離を取る。
「ぐあああああっ!?」
カインが叫び声をあげ、うずくまる。取り落とした片手剣と、それを握ったままの左手が、雪の上で真っ赤な滲みを作っていた。
「ちっ……」
とっさの判断で致命傷を与えられずとも、再起不能にしようとしたが、彼は用心深かった。利き腕を使わないとはな。
『ニール!』
モニカとユナの声が左から聞こえる。しかし、そちらの視界は閉ざされたままだ。
「油断するな、俺が言えた義理じゃないが、カインは強いぞ」
それに、八咫烏まで控えている。氷竜相手にリソースを使い切ったのが、今更ながら悔やまれた。
「そ、そんな事より! ニール、目が……!」
「右目は見えている。集中を切らすなっ」
狼狽えるモニカを口で叱責するが、状況は全く良いとは言えなかった。戦闘リソースの不足、彼我の戦力差、負傷度合い、どれをとっても五分以上にはなり得ない状況だ。
「ニール、テメェ……よくも俺の手を……!」
カインは立ち上がると、八咫烏に指示をして、赤色の怪鳥はひときわ輝いてその体に熱量を溜め始めた。
金等級の魔物が今ここで全力で暴れたらどうなるか、それは火を見るよりも明らかだった。
どうする? 急造杖は使い切った。加速のクールタイムは終わっている筈もない。倒せるほどの超火力があるはずもない。完全に手詰まりだ。
「死にやが――」
諦めかけた瞬間、凄まじい爆発音とともに、八咫烏の身体に円形の穴が開いた。
「グ、グケッ……」
「な、なん……っ!?」
それに驚いていると、八咫烏の身体に二つ、三つと急速に穴が開き、蜂の巣のようになっていく。
「グキャアアアアッ!!」
ひときわ大きな鳴き声をあげ、八咫烏は地面に落ちてボロ雑巾のようになる。
「強欲者に堕ちたリーダーを追ってたら、なーんか懐かしい顔がいるじゃない?」
「ホントホント! モニちゃん元気だった? ニル兄は……何その顔!?」
「あらまあ、随分ハンサムになっちゃって……ま、おじいちゃんになっているよりはマシね」
二つの人影が、親しげに話しかけてくる。その声には聞き覚えがあった。
「……サーシャ、アンジェ」
「久しぶりね、ニール」
「お疲れ様っす!」
懐かしい、パーティメンバーの再結集に、こんな状況だというのに頬が緩むのを禁じ得なかった。
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