第16話 魔物集落討伐1
広場で突如発生した炎は、眠っていた魔物を起こすには十分すぎる効果を持っていた。
「グギャギャ!」
「ゲギャッ!」
文字通り飛び起きた魔物は、周囲の状況をすぐに察すると、火の手が上がる広場へと向かおうとする。
「あら、どちらへ行かれるのですか?」
彼らの背中に声が掛けられた。魔物が振り向くと、銀髪赫眼のメイドが恭しく礼をしている。彼女は顔をあげると、その場に似つかわしくない、穏やかな表情で口を開いた。
「そんな大勢で広場に行かなくても、こちらにも、脅威はあるのですよ? ああ、しかし……酷い味です。脂ぎっていて、喉にへばりつくような感触……肥えた奴隷商人ですら、もう少しマシな味でしょうね」
メイドは唇を舐める。
その唇には血が滲んでいる。
そして彼女の足元には、首筋から血を流した豚鬼の姿があった。
「ギシャアアァッ!!」
その姿を見て、一匹の小鬼が棍棒を振り上げて突進する。
しかしそれは難なく躱され、空を切った。
メイドは小鬼を顧みることなく一足跳びに距離を取ると、ぱちんと指を鳴らした。
「グ、グオォ……ブギイイィィィイイッ!!」
首から血を流していた豚鬼が雄叫びと共に起き上がる。しかしその眼は狂気に染まり、口元からは涎や吐瀉物がダラダラと垂れてきていた。
「さて、魔物は魔物同士、不死種に刃を向けた罪を贖ってもらいましょう」
「ブギイィィッ!! ブギギギィィイイッ!!」
狂気に染まった豚鬼は、ふらつく足取りで地面に落ちていた銛を拾い、周囲の魔物たちにそれを振り回した。
「ギャギャギャッ!?」
「ギー! グガガァッ!」
突然の裏切りに、魔物たちは一瞬で混乱に陥る。その姿を横目に、銀髪赫眼のメイドは集落の奥へと身を翻した。
――不死種の眷属
不死種の持つスキルのうち一つで、対象の血液を摂取し、その代わりに唾液を与えることで効果を発揮する。
対象は自我を奪われ、不死種の指示に必ず従う木偶人形と化す。自殺以外の命令をすることができ、筋力は数倍にもなる。
効果は夜が明けるまでで、夜が明けると対象の体内に入り込んでいた唾液が組織を変容させ、死に至る。
あまりにも強力な効果だが、これは対象が眠っているか気絶していないと使えず。死んでいる相手には効果がない。それに加えて、一晩に付き一回しか使用することができない。
「広場では大火事、寝床では裏切り……この大混乱で集落のボスはどう出てくるかしらね?」
不死種のメイド、ユナはくすりと笑みを零した。彼女の向かう先は村の中央、ひときわ大きな魔物用の建物がある場所だ。
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