第29話 予選②
『さあ、始まりましたねえ』
『始まりましたね、Freakin' Albatrossカップ、通称FAカップの予選が』
『はい。あ、申し遅れました、実況は
『よろしくお願いします』
Youtubeの大会本部の放送。その一幕には元アナウンサーの男と、元プロゲーマーの男が暑苦しく場を盛り上げていた。
『さて。予選もそこそこ名の売れた人がいますねぇ』
『元プロゲーマーやVtuberの姿も見えますね。さしずめ決勝に招待してくれないなら自分で行ってやるよということだろう』
『すみません、厳正な審査のもとで決勝メンバーは選んでいるんですが』
『そんなことよりよ。武蔵さんは注目選手はいるか?』
『いますねぇ。といっても、これはヒーローさんも同じでしょうが』
『ははは。真っ先にこのメンバーで中央の「市街地」に降りて、しかもそこから安置の
『注目選手――siX_sense選手ですね。ただ、動きを見ている感じは相方の方もかなりの実力者に見えます』
『お、とうとう接敵だ』
『あれは
『『――――え?』』
『見えてる?』
「おう。2人とも見えてる。まさかこんなところで張ってるとは思ってないみたいだな」
俺たちがまっすぐ目指したのは、安置の最南端。ぱっと見は障害物もないような草原に、俺とXは伏せてスコープを覗いていた。
「まだ気づかれてない。もう少し近づけるか?」
『いや、5秒後に撃つ。さっさと倒して次が来る前に漁らないといけない』
「了解。俺は奥の敵をもらうぞ」
『おっけー』
俺のスナイパーのスコープには、こっちに直進してくる2人の戦士の姿が見える。
直進してくる敵は楽だ。左右の偏差は気にする必要がなく、上下の偏差だけ考えればいい。
距離は500メートル。ということは弾の落ちる程度は……。
俺は相手の頭から2センチほど上を狙って、クロスヘアーの真ん中を合わせる。
「撃つぞ」
パンッ。
戦場に響いた、乾いた銃声。
その弾は、寸分違わず相手の頭を貫いていた。
『今の……見ましたか?』
『あ、えっと、うん、見たよ……』
500メートルの遠距離狙撃。それを、間違うことなく頭に当てた今のシーンは、実況解説の2人を動揺させるのには十分だった。
『えーっと、私には敵の姿すら視認できなかったのですが』
『僕の方も敵は米粒くらいにしか見えなかった。頭なんて、それこそミジンコ大にしか見えなかったね』
『できるんですね、あれを、ヘッドショットで』
『狐に化かされてる気分だ。あんなの、真似のしようがないよ。無理無理、撃たれた方はたまったもんじゃないね』
『で、でも、もう一人のFRUITSMIXさんの方も胴体に当てたみたいですね。犬城チームはどうするのでしょうか。相手の場所も分かったとは思いますが』
『どうする? どうしようもないでしょこれ』
『どうしようもない、とは?』
『ここは草原だよ? 隠れる場所なんてそう多くはないさ。それに……もう捕捉されてるんじゃ』
そうヒーローが言った瞬間には、もう片方の敵もヘッドショットで撃ち抜かれていた。
「ほーう、外したんだあれ」
『う、うるさい……。君がどうかしてるんだよ。あんなのヘッドショットとか、馬鹿げてるよ』
「負け犬はいつだって同じようなことを言うんだよなあ」
『絶対殴る。殴るからね』
「真面目な口調で暴力宣言しないでいただけます?」
いやあ、しかしいい気分だ。Xが珍しく屈辱を味わっているからな。
結局Xが撃ち漏らした敵も俺が仕留めることになったし。これで貸し1つだぜ。
「どうだ、いい物資あるか?」
『たっぷりあるよ。やっぱりみんな初戦ってことで長生きしたかったんだろうね。たっぷり蓄えてる』
「おっけ、要るもんだけ頂戴していくか」
お、8倍スコープだ。よしゃ、6倍と交換して、と……。
「ほんじゃ、次の狩りに行きますか」
『このままさらに南下するよ。ないとは思うけど、もしかしたら安置外からこっちに来るチームがいるかもしれない』
「わかった」
安置の
狩場としてはうってつけ。
『さあ、
「……配信してるとは思えない口の悪さだな…………」
『うるさい』
「へい」
どうやら俺に負けたことが相当悔しいらしいな。ちょっと不機嫌なのが見て取れるぞ。
『あんたは集中してスコープ覗いておけばいいのよ。口は動かすな』
「厳しいな‼」
じゃあまあ、次のターゲットを探しに行きますか。
『これは……想像以上ですね』
『すでに彼の名前がTwitterでトレンドしているらしいぞ。いや、当然なのか?』
『どの敵もなすすべなく倒されてしまっていますからね』
2チーム目は1チーム目と同じように隼の狙撃だけで終わり。
3チーム目は隼がスナイパーライフルで1人が倒された時点でスモークグレネードを使い身を隠すも、近づいていたFRUITSMIXにあっさりやられて終わり。
4,5チーム目は撃ち返しを試みるものの、FRUITSMIXに1人倒されて動揺したところを隼に射撃されて終わり。
『まだ1ダメージも受けてないんじゃないんですか?』
『どうやら実力は前評判通りだったらしいな。相棒の子も正確なエイムにとても冷静な判断力を残している。想像以上に強いチームだぞこれは』
『決勝までは行ってくれそうですね』
結局1試合目は隼が25キル、FRUITSMIXが14キルと合計39キルでチャンピオンに輝き、予選突破に向けていいスタートを切ったのだった。
――――――――――――――――――
FPS解説③
FPS界隈で一番使うと言っても過言ではない言葉は、『漁夫』です。そうです、『漁夫の利』の『漁夫』です。
もともとの意味としては、争っている2者に対し第3者がいいとこどりをしていく、という感じの意味でしょうか。
FPSで使われる意味も似たようなものです。『漁夫』という言葉が使われるタイミングは、2チームが戦って消耗したあとに他の別チームが消耗した2チーム、あるいは勝ち残った1チームを簡単に撃破して2チーム分の物資を奪っていくときに使われます。『漁夫が来た』『漁夫られる』といったように、要は弱っているところに別のチームが来るという意味です。
実際めっちゃくっちゃ使われます。1試合やったら1回は言う言葉です。ちなみに『漁夫られる』と普通にキレます。せっかく頑張って1チーム倒したのに、平然とこっちも倒され相手が余裕で漁っているのを見ると大体キレます。
ただ上手く『漁夫る』のはバトルロワイヤルの鉄則というか、むしろ上手く『漁夫る』チームや上手く『漁夫』に対応できるチームが強いチームだとも言えます。
今回の隼たちが取った「安置際で戦う」という戦術も、この漁夫を対策したものです。
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