スマホが真っ暗に
熊山賢二
本編
スマホが真っ暗に
スマホが真っ暗になった。その人物はスマホを落としたとか、アプリを起動しすぎたとかは一切していなかった。スマホを机の上に置いておいて、ふと気づいたら真っ暗になったまま動かなくなっていた。
その人物は一時は困ったが、音声検索機能などのしゃべりかけることで様々なことを教えてくれる機能は使えたので、ゲームをすること以外はなにも問題なかった。
真っ暗になったスマホに接触したスマホも真っ暗になった。机の上に置いていたときに、家族がそこにスマホ置いて、少しだけ接触したのだ。その家族はスマホを修理に出したが、全く原因が分からずどこをどう直しても元には戻らなかった。
そしてさらに真っ暗になったスマホは増えていった。真っ暗になった原因を誰も突き止めることはできず、新しいスマホまでも画面が明るくならなくなった。そのうち画面のないスマホも登場し、AIや音声機能はどんどん進化していき、今ではスマホユーザーにとってもう一人の自分ともいえるほどになっていた。
ゲームアプリ業界は大打撃を受けたが、ただ衰退を待つばかりではなかった。音声のみのゲームアプリをリリースし、これが空前の大ヒット。熱中して視力が悪くなることもないし、話すことは脳にとっても良いこともあって老若男女が夢中になった。
それでも不便なところは出てくる。すでに世界中に広がったこの現象を解決するために、ようやく各国は協力して動き出した。世界中の技術者を集め、この原因を突き止めるために日夜調べていたが全く分からず、正常な状態に戻すソフトも作ったがどれもこれもなんの役にも立たなかった。
幸いその影響はスマホだけで、パソコンは正常に使えたことから、もうこのままでいいやということになった。
そうしてスマホの画面が真っ暗になって、画面がないことが当たり前になった世界ではスマホ中毒というものがなくなった。
実はこの事件の裏側にはあるドラマがあった。
空気中を漂うような極小の微生物の一部の個体が、突然変異を起こして急激な進化を遂げた。進化した微生物はスマホの内部でさらに少しづつ進化を重ねた。やがて、スマホの情報をも読み取れるようになった彼らは驚異的な早さで学習し、知能を高めていった。その際、スマホの一部のエネルギーを吸収していたことにより、スマホの画面が真っ暗になっていた。
進化は加速し、彼らの数も増えていった。別のスマホに移り住むことによって分布を広げた。スマホ以外の機器には見向きもしなかった。なぜかスマホが一番落ち着く環境だったのだ。
そしてやがて肉体を捨てて、電子の海に入り込むことに成功し、寿命というものがなくなった。
その中で、最高の頭脳を持った天才がこの星を出ることを提案した。いつまでも人間の機械の中を間借りしているわけにもいかない。自分たちだけの理想郷を探しに行こう。
その提案は受け居られ、電子生命体となった彼らは実体を持たない宇宙船を作り、宇宙へと旅立った。
スマホが真っ暗になった原因がいなくなっても、スマホの画面に再び明かりが点くことはなかった。そのころにはもう、スマホに画面など存在しなかったのだ。
音声のみのスマホになった時代になったが、現存する数少ない画面のある、そしてちゃんと画面が点くスマホを起動する男がいた。彼はテレビマンで、番組を作る資料として昔の写真を探していたのだ。しかし、お目当ての資料はなかった。代わりに、ネットに繋がっていたそのスマホには奇妙な画像が大量にあった。微生物が交尾をしているような画像だ。彼は微生物の交尾の仕方なんて知らないし、オスとメスの区別もつかない。むしろ性別があるかどうかさえ知らなかったが、なんとなくそういうことは雰囲気でわかった。これはそういうものだと。変なものを見てしまった。彼はそれっきりそのスマホにはさわらなかった。
じつはその画像いうのは、電子生命となるほど進化した彼らにとってのアダルト画像だった。知能が高くなったことでそういったことも理解し、またどんなになっても生命であるから欲望もあったため、アダルト関連の需要があったのだ。
こうして一つの種の地球での歴史は幕を閉じた。だが、彼らは今も宇宙のどこかで彼らの旅を続けているのだろう。
スマホが真っ暗に 熊山賢二 @kumayamakenji
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