第47話 魔力溜まり
南の森の探索三日目。
前日の探索で危険な橋を渡ってしまった一行は「無理をしない」という目標を掲げ、探索に臨んでいた。
だが…………
「おじさま、二時の方向から大きいのが二匹来ます!」
「……クロフト、十時から中型二。」
「おじさま! 十二時上空から大型一、急接近してきます!!」
一行が森の南東部の探索を始めるや、何種類もの化け物に囲まれていた。
前日に襲われた鳥の他、巨大イノシシや、真っ黒な巨大ウサギなどが次々に襲ってくる。
一行は女性陣がオペレータとなり、男二人が飛び道具で化け物を倒す、という役割分担でなんとか敵を捌いてゆく。
「こう次から次に来られると、周りを見る余裕もないな」
誠治は毒づきながら銃をぶっ放し、危険度の高いものから潰していく。
鳥がバラバラに千切れ飛び、巨大イノシシの頭が吹き飛んだ。
ちなみに敵の方向を示す呼称は、皆で相談して元の世界で使われていた時計になぞらえる呼び方を採用することにした。
進行方向正面が十二時、右真横が三時、左真横が九時、真後ろが六時である。
「キリがありませんね」
いつもは沈着冷静なクロフトが眉を顰める。
「残弾が残り少なくなってきたし、一度馬車まで退却しない?」
携行した弾丸は約五十発。
今日は既に三十発近い弾丸を使ってしまっていた。
馬車に戻ればまだ二百発以上ストックがあるが、手持ちは二十発程度しか残っていない。
誠治の提案は、すぐに満場一致で可決された。
「さすがにあれは、多過ぎです」
クロフトが首をすくめた。
馬車に戻った一同は、安全を確保するため北に四十分ほどのところまで移動し、昼食をとりながらミーティングを行っていた。
「とはいえ、あれをなんとかしないと、この道も使えないままだよね」
誠治の言葉に、トーリが頷いた。
「森中の化け物を一掃してくれ、とは言わん。ある程度数を減らしてくれれば、あとは村の衆で掃討する。だからもうひと踏ん張り頼めないか?」
「まぁ急ぐ旅でもありませんから、何回かに分けて少しずつ脅威を排除しながら探索を進める手もありますが。皆さんはどうです?」
クロフトの質問に、詩乃が手をあげる。
「私は、構わないです。このままだと村の人たちも困ると思いますし」
「僕もそれでいいよ」
「……シノたちがいいなら、私が反対する理由はない」
全員が探索の継続に賛成したため、一行は引き続き、無理せず、しつこく探索と討伐を行うことにしたのだった。
探索六日目の午後。
一行はついに最後のエリア、森の南西部の奥に達しつつあった。
南西部は南東よりも更に化け物の数が増え、また同じ種でもひと回り大きく強力な個体が襲って来るようになっていた。
そのため一行は非常に苦戦し、まる二日かかってようやくそこまで辿り着いたのだった。
森南部の探索を始めてからこれまでに倒した魔物の数は、小型のものを含めれば三百匹は下らない。
一パーティーのわずか三日間の戦果としては驚異的な数字だった。
「化け物の姿を見なくなって来ましたね」
クロフトが隣の誠治に話しかける。
「化け物どころか、生き物がいないな。植物ばかりで。……ここまで来ても、結局なんでこの森の動物があんな化け物に変わっちゃったのかは、分からずじまいだったな」
誠治はため息をついた。
そう。この数日、戦っていて気づいたことである。
悪意を持って襲って来る化け物たちは、トーリやクロフトたちですら初めて見る魔物だったが、全て元々この森にいた動物たちと種を一にしていた。
猿しかり、鳥しかり、ウサギやイノシシしかりである。
故に一行は、この森に棲息していた動物が何かの原因で化け物に変化したのでは、と考えるようになっていた。
「一般的に魔物は、魔石鉱山や魔力溜まりなどの近くに棲む動物が代々体内に魔石を生成していくことで、長い年月を経て群れごと変化していったものと言われています。オークであればイノシシ、オーガであればヒト種が祖というように。しかし、わずか一年二年で、恐らく一代のうちに魔物に変化するというのは、僕も聞いたことがありません」
クロフトは首を捻った。
「ということは、近くにその魔力溜まりか、それに類した何かがある可能性が高い訳か」
「そういうことになりますね。実際、この辺りの魔素はかなり濃くなってきてますし」
「魔素?」
「ええ。魔力の元になる物です。加工前の属性のない魔力原料とでも言いましょうか。その魔素の影響も顕著に出てます。周りの樹木、形がおかしいでしょう?」
「……これ、やっぱり異常なのか」
誠治は周囲の植物を指差した。
確かに、森の北の方の植物とは、何かが違っていた。
北の方は、誠治や詩乃から見ても地球と変わらない普通の木々、草の生える森だったが、この辺りの森は明らかに何かが澱んでいる。
奇妙にうねって分岐する枝。左右非対称に奇形的に成長している黒い葉など。
まるで絵本の中の魔女の森のようなおどろおどろしさがあった。
「仮に魔力溜まりがあったとして、それをなんとかする方法はあるのかい?」
「あると言えばあります。が、色々条件がつくので、簡単ではないですね」
クロフトは魔力溜まりを消す方法を、誠治に説明した。
彼によれば、魔力溜まりには『吹き溜まり型』と『湧き出し型』二つのタイプがあり、どちらの型なのかで対処法が違ってくるのだという。
まず、何かの加減で偶然魔力が集まってしまった『吹き溜まり型』の場合。
この場合は簡単で、魔力溜まりの中心で、ひたすら魔法を使い続ければ良い。
例えば光系統の魔法に、杖などの先に懐中電灯程度の光を灯す『ライト』という魔法があるが、これを発動してそのまま放置しておけば、一週間程度で周辺の魔力を使い切り、正常な環境に戻るという。
「車のライトを点けっぱなしにして、バッテリーがあがるような話だな」
「よく分かりませんが、たぶんそんな感じです」
異世界の話を持ち出した誠治のコメントに、クロフトはついつい苦笑する。
次に、魔力が突然湧き出してできた『湧き出し型』の場合である。
このタイプは次から次に魔力が湧いてくるため、源泉である穴を閉じなければ、いくらその場の魔力を消費しても根本的な解決にはならない。
「『穴を閉じる』って、そんなことできるのかい?」
「実は、僕もあまり詳しくは知りません。ただ、空間に開いた穴を塞がなければならないので、普通の人間には不可能。時間と空間を操作することに長けた星詠みだけがその仕事を成し得る、と聞きました」
「星詠み…………」
誠治は後ろを歩く詩乃を、ちら、と振り返った。
自分の話をしていることに気づいた詩乃は、わずかに顔をあげた。
が、その顔はなぜか苦痛に歪んでおり、息が荒い。
「お、おい、どうした?!」
誠治は狼狽えながら詩乃にかけ寄る。
詩乃はか細い声で誠治に訴えた。
「……さっきから、頭が痛くて」
詩乃は苦しそうに、言葉を吐き出したのだった。
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