第26話 爆風と変装、そしてクロフトの腹芸
するどい衝撃波と爆風が馬車を襲う。
鼓膜を破らんばかりの爆音。
「「!!!」」
全員が近くのものに掴まり、激しい揺れと音に堪える。誠治は爆風から庇うように詩乃の前に膝をつくと、彼女を抱きしめた。
ラーナはただ逃げるように、馬車を走らせ続ける。
近くの村の住人の幾人かは、その夜、空に向かって立ち昇るキノコのような形の雲を見たという。
爆風が過ぎ去ると、ラーナは馬車の速度をゆるめ、やがて停止させた。
さらに御者台から追加の照明石を打ち上げる。
誠治たちは顔を上げ、互いに無事を確認すると、誰ともなしに馬車の後ろを見た。
「これは…………」
絶句する一同。
照明石の光が、巨大なクレーターと焼き払われ砂ばかりの荒野となった元・草原を照らしていた。
「セージ。あなた、何をしたんです?」
クロフトが困ったような表情で誠治の顔を見た。
「何を、と言われても。ラーナからもらった爆火石を教わった通りに投げたんだけど……。君も見てただろ?」
戸惑いながら返す誠治に、クロフトは、はぁ、とため息をついた。
「わかりました。この件はひとまず置いときましょう。とりあえず、化け物の掃討をしましょうか」
「そうだな」
誠治は相槌をうつと、詩乃に向き直った。
「詩乃ちゃん、悪いんだけど、もう一度だけ気配探知をお願いできるかな?」
「は、はいっ!」
詩乃は真っ赤な顔で頷いた。
再度メンタルリンクと気配探知が展開される。
フィールド上には五匹だけ敵の反応が残っていた。もっとも息も絶え絶えなのか、その反応は微弱なものだったが……。
クロフトと誠治は馬車を降りた。
シュッ パスッ
死にかけの猿を、クロフトの矢が葬っていく。
シュッ パスッ
クロフトは歩みを止めることもせず、歩きながら矢を放ち、死にかけの猿にとどめを刺していた。
それから間もなくして、全ての敵の反応が消えた。
「お〜い!」
敵の掃討が終わった頃、目の前の村から馬に乗った男たちが三人ほど、誠治たちの馬車に向かってやって来た。
三人はバラバラのデザインの革の鎧を着こみ、ブロードソードを背負っている。
誠治たちは気配探知の探査イメージを確認したが、どうやら悪意はないようだった。
「派手にやりましたからね。様子を見に来た、というところでしょう」
クロフトは来客を遠目に見ながら苦笑すると、思い出したように誠治を振り返った。
「あ、そうだ。セージとシノは、変幻の腕輪で容姿を変えてきて下さい。この国で黒髪黒目はそれなりに目立ちますから」
「そうだな。分かった」
誠治は荷台に戻り、詩乃にも声をかけて変幻の腕輪を身につけた。
腕輪の魔法で髪と瞳の色が変わり、詩乃はそれぞれベージュブラウンに、誠治は銀髪気味のグレーに変わる。
「おじさま、その色素敵ですね……」
詩乃が、ぼぅ、っと誠治を見つめる。
「そ、そうかい? なんか照れるな。詩乃ちゃんも明るい雰囲気で似合ってるよ」
誠治は照れ隠しに視線を逸らした。
「そ、そうですか? よかった、おじさまに気に入ってもらえて」
詩乃は恥ずかしげに指で髪をいじる。
なぜか二人して微妙な雰囲気になった。
「二人とも。そーゆーのはよそでやって」
御者台から荷台をのぞきこんだラーナの言葉に、誠治と詩乃は慌てて離れる。
「さて、お客の顔でも見に行くかな!」
誠治はわざとらしく荷台から飛び降りた。
「なぁ、あんたたち。さっきここでどデカい爆発があっただろう。何があったか聞きたいんだが、いいか?」
先頭に立ってやって来た二十代半ばくらいのガタイの良い男が、警戒しているのか少しだけ距離をとって尋ねてきた。
「いいですけど、あなたは?」
クロフトが人好きする営業スマイルで応対する。
「俺はそこのロミ村のトーリって者だ。村の自警団をやってる」
「そうですか。私は旅商人のクロフト。彼らは私の護衛と同行者です。私たちは今しがたそこの森を抜けてきたんですが、森の中で化け物に襲われましてね。命からがら逃げてきたんですよ」
「森の化け物だって?!」
トーリの表情が険しさを増す。
「ええ。何かご存知ですか?」
クロフトの問いに、トーリは後ろの二人を振り返る。
二人のうち一人が頷き返すと、彼はクロフトたちに向き直った。
「その話、よかったら詳しく聞かせてもらえないか?」
「そうですねぇ。話をさせて頂くのは構わないんですが、もうこの時間ですしねぇ…………」
トーリの言葉に、クロフトはわざとらしく躊躇ってみせる。
「そうだな……お前たちが急がないなら、今日は村に泊まっていくといい。うちには来客用の部屋が二つあるから、そこを使ってくれ。詳しい話を聞かせてもらえるなら夕食もつけるぞ?」
「そうですか、それはありがたい申し出ですね。それでは、お邪魔させてもらいましょうか?」
クロフトは誠治たちを振り返り、片目をつぶってみせる。コクコクと頷く一同。
「よし、決まりだ。案内するからついて来てくれ。馬車置き場もあるから、そのまま村に入ってくれ」
こうして一行は、王都ヴァンデルムを出発してから初めて、屋根の下で寝られることになったのだった。
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