医療品
バブみ道日丿宮組
お題:賢い味 制限時間:15分
医療品
動物は好きなことをする欲望に支配されてる。その感情を持たないのは動物とみなされない。
だが、欲望がない人間という動物はいる。
かくいう私もその1人で何かをしたいとか、欲しいということがない。幼き頃はそれはそれはわんぱくだったと聞くが今の私を考えるとそれこそが願望であったのではないかと疑ってしまう。
「先生。本日のワクチンを受け取りに来ました」
ノックもせず部屋に入ってきたのは甥っ子でもあり、後輩であり、助手である存在だ。
「そろそろノックという言葉を覚えたほうが良い。まぁ……私も気にはしてないが」
そらと封筒に入ったワクチンを投げ与える。
「おっとと。落ちたら危ないじゃないですか」
「汚いものをどう扱うがこっちの勝手だろう」
ワクチンとは私の排泄物が含まれてる薬品だ。
「おしっこですものね。でも、先生のはいい匂いがする気がします」
「匂いを嗅ぐな。同性とはいえ、どうかと思うぞ」
封筒からいくつか瓶を取り出し振るう彼女の手際はさすがだった。
「そして先生でもない。私はただ日常的に排出行為をしてるだけで誰かをみたりしてない」
したいとも思わない。
「それで誰かを救えるなら安いものだと思いますよ。ボクもこのワクチンで病気が治ったんですから誇ってください」
尿で人を救ったことを誇りに思うというのは気乗りしない。昨今では教科書に載せる、載せないなどの議論もされてるようで困りごとは増えてくばかりだ。
私がしたいことはこんなことではない気がするが、そのなにかは浮かんでこない。
「じゃぁこちらもお薬渡しておきますね」
「ありがとう。外に出るのも億劫だからね」
甥っ子から受け取った封筒にはいくつかの薬が大量に入ってた。
「先生も外に出られるように治ればいいですね」
「冗談をいうな。生きたくもないこの世を人が助かるからというだけで生かされてる私が、私をよくみろ」
腕に巻かれた特殊な装置を見せつける。
「心臓が止まれば電気ショックと救急隊へ通報……というか体調不良になるだけで医療機関の人が出張ってくる」
まるでペットだ。しかも都合のいい。
「ボクは先生に死んでほしくないのでそういうことができないように対策は嬉しい限りですけど」
「それは他人だから言えるセリフだ。当人になればまた違う」
「まぁボクもこんな特殊な機械がある施設に長居したくはないのは本音としてあります」
わかってるじゃないか。
私のための施設。その隣の施設は私を必要とする施設。そのまた隣は私の世話をするための施設。そういう施設が広がってる。
「じゃぁまた来ますよ。それまで元気でいてくださいね」
数分もたたず甥っ子は部屋を出ていったのでやる気ゲージが減った。
手渡された薬を一通りのむと、ベッドに横になった。
少し良くなった……気がした。
医療品 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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